2006年05月06日(土)
MEN'S EX 6月号 菊池武夫と赤峰幸生の Be Buffalo Forever! vol.1 [MEN'S EX 掲載記事]
菊池武夫さんと赤峰幸生さん。
ファッション界の2人の巨匠が毎回テーマをひとつ決め、それに基づいてファッションを披露し語り合う、夢の対談連載。
「今月のテーマ」
紺のブレザーを自分流に着る
プレッピー再燃の波を受け、今年の再注目アイテムとなっている紺のブレザー。巷で騒がれているこのアイテムをファッション界の2人の巨匠は自分流にどう着るのか?紺のブレザーにまつわる思い出話は、いつの間にやらどんどんディープな方向へと進んでいきました。
■ファッション界の巨匠がお手本にしたものは?
日本のファッション界を代表する2人の巨匠、菊池さんと赤峰さんが、紺ブレについて語ります。まずは赤峰さんが、時代を遡って紺ブレとの出会いを話してくださいました。
赤峰(以下赤) 色気づき出したのは中学生になってからですね。学者の叔父がいつもネイビーのブレザーを着ていて、それにレジメンタルのネクタイを合わせているのに触発されまして。その後は渋谷のサカエヤとか、横須賀とか、米軍キャンプの払い下げのものとか、アメリカのブレザーをずっと探していました。'60年代はアメリカからのインフルエンスが強くて、ブレザー、ボタンダウン、レジメンタル、ジャズ、この4つがセットになっていましたからね。マディソン・アヴェニューの男のスタイルに対しての憧れがあって、アメリカの洗礼を受けながらブレザーに入っていきました。菊池さんはどんな感じだったんですか?
菊池(以下菊) 僕も小さい頃からお洒落に対する意識は強かったですね。ただ、洋服に下駄を合わせたり、シャツに合わせて手拭いを首に巻いたり、ちょっとひねくれていたところはありました。子供のときびっくりしたのは、父親が真っ白なフランネルにストライプのパイピングが入ったブレザーを着ていたことかなぁ。胸にはドイツのワシのワッペンがついていて、随分と派手なのを着ているなって思いました。
赤 イメージでいうと、ベルリンのオリンピックのユニフォームみたいな感じなんでしょうね。
菊 そうそう(笑)。ネイビーのブレザーを初めて着たのはそれからずっとあとの20代後半になってからです。ただ、スーツは18歳から着ていました。襟が小さくてノーパッドで肩が狭く、丈も短めのやつです。パンツもピタピタのを穿いて、それにチェッカーブーツを合わせたりしていました。ダクロンとか光っている素材、昔流行りましたよね。そういうのをよく作っていました。
赤 コンポラが流行った時代ですよね。いわゆる(注1)ピーコック革命の頃で、玉虫のグリーン系で、ポップスでいうと(注2)チャービー・チェッカーとかそのへんがイメージですよね。
菊 それにソウルの雰囲気が混じっている感じ。赤峰さんと同じ時代ですけど、僕の場合はちょっとハミ出てるっていうのかな。でも全く違うってわけではないんですよね。
■気になっているブレザーは最近あまり見ないフランネル
赤 28歳で独立して会社を作ったんですけど、当初は元町の(注3)信濃屋のオリジナルのブレザーとかシャツを作っていたんです。
菊 へぇ、それは凄い。
赤 当時はイギリスの(注4)フォックスブラザーズのフランネルを使ったブレザーが信濃屋のオリジナルの定番でした。ほかにアクアスキュータムも置いてあって、そっちは薄手のメルトンみたいなカチカチの、ストラッチャン&シュトラウド社っていうフラノ専門の生地メーカーの生地を使っていました。世界ビリヤード選手権のビリヤード台のフエルトを作っているところで、毛並みがもの凄くきれいでしたね。
菊 最近、フランネルのブレザーって見かけないですよね。でも、自分の中ではフラノがもの凄く気分なんです。そういえば、横浜といえば(注5)ポピーにはよく行きましたね。
赤 ポピーには当時、ルイ・アームストロングみたいな感じの番頭さんがいて、ネイビーのブレザーにキャンディストライプのボタンダウンシャツを合わせて、黒のニットタイをしていましてね。カッコよかったなぁ。ところで、今日着ていらっしゃる菊池さんのジャケット、くるみボタンを使っていて懐かしいですね。
菊 これはベルヴェスト製の(注6)40カラッツ&525のオリジナルです。くるみボタンとワッペンがポイントになっています。本当はワッペンじゃなくて本物の刺繍を入れたかったんですけどね。イタリアとかイギリスのクラシックなホテルってバスローブにイニシャルが入っているけど、ああいうのっていいですよね。キラキラしていないところもいい。
赤 ブレザーは一番の便利モノ、コンビニなアイテムですよね。グレイのパンツに合わせても、あるいは5ポケットパンツに合わせてもいい。ネイビーという色が抑えてくれるので、オールマイティに決まりますから。いわば、男の服の楷書体なんです。字が上手く書けなくなると楷書に戻るみたいな感じで、結局は基本の紺ブレに戻るんですよね。
菊 時間帯も広いですしね。本当、便利な1着です。いってしまえば、カーディガンみたいなもので、そういうマインドがブレザーというアイテムの役割としてありますよね。ただ、自分にとってネイビーは必需品っていう感覚なので、そこから一歩進むとしたら、今だったらグレイフランネルのブレザーが着たいなぁ。白のフランネルのパンツを合わせてね。2パッチポケットで2つボタンか、ハイの3つボタンかな。夏だったらシルクが入った素材もいいですね。これもやっぱり紺じゃなくてグレイですけど(笑)。
赤 お洒落ですねぇ。自分の場合、夏場だったらアイリッシュリネンのモイ・ガッシェルっていう生地屋があって、そこってパナマのガチガチの麻が得意なんですよ。麻でも600gくらいあるやつで、裾がクルクル丸まったりしないんです。胸ポケットにサックスのグレイがかったイニシャルを刺繍で入れて、ボタンは白蝶貝でね。それにドリルクロスのバミューダみたいな太めのショトパンツを合わせたいですね。着込んでいって味が出てくるブレザーが昔から好きなんです。
菊 今日着てらっしゃるブレザーもかなりヘビーウエイトっぽいですよね。
■2人の巨匠が生み出した自分流の着こなしとは?
赤 '98年頃に(注7)リヴェラーノで仕立てたもので、これも400gくらいあります。あと、確かに菊池さんがおっしゃるように、フラノのブレザーは着たいですね。それもダブルがいい。
菊 いいですねぇ。ダブルはやたらと新鮮に見えますよね。ビシッと着ているのがカッコいい。といいつつ、キチッとモノを着るのって最近あんまり得意じゃないんです(笑)。だからこうやって袖口をまくったりしてね。それだけで気分的にものすごくラクになる。これって'70年代の終わり頃、シャツだろうが上着だろうが、みんなやっていましたよね。まくるっていうよりはたくし上げる感じでね。その点、赤峰さんは、きっちりしていますね。正統にグレイパンツを合わせていらっしゃる。
赤 グレイでも明るい色が好きなんです。今日穿いているミディアムグレイでギリギリですね。チャコールは合わせないんです。それなりのコントラストがあるほうが、ネイビーが映えますからね。ベージュのギャバのパンツを合わせて着るのも好きですね。
菊 ネイビーのブレザーの着こなしといえば、アンディ・ウォーホールが自分の中でももの凄く印象に残っているんです。彼はあれをユニフォーム化していたでしょう。本人と服が見事に調和しているっていうのかな。
赤 レジメンタルのネクタイを合わせながら、シャツだけは洗いざらしのダンガリーにしちゃうみたいなね。
菊 そうそう、あのノリが格好よかったですよね。
赤 今は彼がしていたような芯がないペラペラしたネクタイが気分ですよね。ノットも小さいほうがカッコいい。
菊 昔のネクタイってみんなそうでしたよね。プックリした感じはなくて3つ巻きの裏無しが当たり前でしたから。
赤 タイトなシャツのほうが気分だし、ノットも小さいほうが今の気分ですよね。クラシックに紺ブレを着るにしても、合わせを工夫しながら今の時代の気分をどう表現するか、そこが大切なんです。赤いストライプのシャツと赤いネクタイってのも、歳を重ねてきたからできる着こなしで、若い頃はなかなかできませんでしたから(笑)
(注1) 「ピーコック革命」
1960年代後半に起こった、メンズファッションの個性化の動き。日本ではシャツ&ネクタイのカラフル現象が起こりました。
(注2) 「チャビー・チェッカー」
'60年代、日全米に“ツイスト”ダンスブームを巻き起こしたオールディーズ歌手。代表曲は「ザ・ツイスト」、「レッツ ツイスト アゲイン」など。
(注3) 「信濃屋」
日本で最も早くクラシコイタリアの服を展開した横浜・元町の洋品店。ここのバイヤー白井俊夫氏は、ファッション界のゴッドファーザー。
(注4) 「フォックスブラザーズ」
フランネルがあまりにも有名な英国の生地メーカー。フランネルはココのヴィンテージしか使わないっていう頑固なサルトもあるほど。
(注5) 「ポピー」
信濃屋と双璧を成す、元町の老舗洋品店。ここのオリジナルのシャツとネクタイは、当時大人気を呼びました。
(注6) 「40カラッツ&525」
菊池さんがディレクターを務めるブランド&セレクトショップ。青山のショップでは、菊池さんが自らがセレクトしたインポートも展開。
(注7) 「リヴェラーノ」
アントニオ・リヴェラーノ氏率いるフィレンツェのサルト、リヴェラーノ&リヴェラーノのこと。赤峰さんの大のお気に入り。
■(写真右)菊池武夫氏
・菊池さんの必需アイテムのキャスケット
・襟を出して着る40カラッツ&525の白シャツ
・40カラッツ&525のベルヴェスト製紺のブレザー
・シワがナチュラル感を生む40カラッツ&525の白のコットンパンツ
・アディダスのスーパースター
■(写真左)赤峰幸生氏
・KOGENの120双エジプト綿のストライプシャツ
・エディ・モネッティのサテンベースのストライプタイ
・リヴェラーノ&リヴェラーノでス・ミズーラした紺のブレザー
・リヴェラーノ&リヴェラーノでス・ミズーラしたウールパンツ
・ジョン・ロブのスエードシューズ
約2時間にわたるお二人の対談は、40年前の前にまで遡り、服の話で盛り上がっていました。お互いまるで異なるファッションのように見えつつも、根底では似通っている部分が多々あることを、対談を通して実感された様子でした。
Posted by インコントロ STAFF at 00時00分 コメント ( 0 )