2009年10月24日(土)
OCEANS 12月号連載 AKAMINE STYLE 目覚めよ、日本の男たち! [OCEANS掲載記事]
マエストロ赤峰の「オトナ相談室」
仕事、家庭、子育て、そして愛……などなど。
30〜40代のオーシャンズ世代にもなれば、少なからず何かしら悩みのタネは持っているもの。
そんな皆さまの“駆け込み寺”として開設されたのが、このオトナ相談室。
この2年間、皆さんのにお答えしてきたのはのは“人生のマエストロ”こと赤峰幸生氏。
愛情たっぷりのマエストロのエールは、皆さまの心にどれだけ響いたでしょうか。
そして、今月はその25回目にして、な、な、な、なんと最終回っ!
そんなわけで、皆さんご一緒に!ありがとう、マエストロ!
今月のテーマ
“格好いい生き方”〜最終回〜
[今月の質問]
赤峰さん、いつもお世話になっております。オーシャンズの編集長・太田です。今回をもちまして、3年間続いたマエストロの連載にひと区切りをつけることになりました。創刊当初は装いの“粋”について教わる趣旨の連載でした。しかし、読者の皆さんはマエストロの人間性に深く興味を持ったようで、いつしか個人的な悩み相談のハガキが届くように。こうして、現在の「オトナ相談室」へと発展。マエストロには、毎月ありがたいお言葉とともに悩める読者を勇気づけていただきました。この場を借りて、御礼申し上げます。大先輩からいただいた“名言”の数々は、生涯忘れません。最終回となる今月は、僕らにいつも見せていただいた、その“格好いい生き方”についてぜひご教示いただけないかと思っております。(37歳・オーシャンズ編集長・太田祐二)
Q.いやぁ〜、格好いい生き方ですか。そういえば、マエストロの言葉にはいつもそう思わせる力がありました。そして、僕らはそのたびに、うっとりとしたもの。だけど、現実を見れば世の中は大不況。時節柄、格好よく生きるなんて土台無理な理想話じゃないっすか?
この大ばか野郎がっっっ!!今までキサマに言ってきたことをもう忘れたのか?まさに馬の耳に念仏。お前には結局何も伝わらなかったということか。格好よく生きる。この根底を支えるのは、これまで何度も述べてきた「ゼロベースの精神」である。これを貫けば、不景気なんぞ屁でもないはずだ。不況自体は恐れるに値しない。ただ、本当に怖いのは不況によって、今までのあらゆる基準や価値観の変化を、従来よりも劣ってしまうと錯覚してしまう人間の性根である。収入、食事、服、住居、その他あらゆる嗜好品・・・・・。これまで、当たり前のように享受してきたものがそうでなくなってきた。しかし、よくよく考えてみろ。それは本当に生きるために必要なものなのか?果たして、自分の内面を本当に豊かにするものなのか?まずは、すべてを見直してみることだ。もし、それが見栄や贅沢、あるいは周囲や世間に対する面目や体裁にとらわれているだけであるならば、この大不況は自分の生活にこびりついたアカを落とすまたとない機会である。己の心を満たす基準や価値観を、何かと比較して作ってはいけない。それで一喜一憂しているなんて、格好いいわけがないだろう。己の五感を研ぎ澄ませ。そして、何事にも自分だけの絶対的な物差しを持って向き合っていくべきだ。格好いい生き方には、既成の概念など無用の長物である。
かくいう私は、常にゼロベースの精神でやってきた。お金があればパッと使うし、なくなったら使わない。カードも使わないし、借金もしない。身に着けるものは上等のものを選ぶが、それは長く使うため。所有する数も最小限だし、流行に流されないものを選ぶ。仕事もそう。もし、自分が経営している会社にもしものことがあるとしよう。私は翌日から何のためらいもなく、20代のころのように、服を売るために日本中を這いずり回るだろう。ただハイエースが1台あれば、何も必要ない。私にはその覚悟がある。行住坐臥、こんなふうに過ごしていれば、不況などまさにどこ吹く風である。ゼロベースの神髄とは、あればあるなり、なければないなり。己の身の丈を真に理解すれば、その道に敵はない。
Q.何物にも左右されない。そして、常に初心を忘れない。これぞ赤峰イズムの真骨頂!武士道に通じるものがあります。ただ、僕ら現代の武士にとって、刀は何よりも見てくれが大切!格好いい生き方には、やはり格好いい刀が不可欠ですものね?
このスカタン野郎が!お前は最後の最後まで聞き分けのないすっとこどっこいだ。刀は見てくれが命だと?ふざけやがって。きらびやかな装飾が施されていても、切れない刀であれば何の意味もないだろうが。見てくれはボロでも構わない。大切なのは、その切れ味。体裁ばかりにこだわった武士の帯刀は、中身のない男と何ら変わりがない。その虚栄心を捨てなければ、格好いい生き方など永劫叶わぬと心得てほしい。
今日、ブランドものをこれ見よがしに身に着けたり、ひけらかしたりする奴は、性根が臆病者だ。そもそも心も経済的にも充実している人間が、見栄を張る必要があるか?何かに不安があるから、小手先で羨望を集め安心を得ようとする。そんなのは、大の男がするもんじゃあない。ものをひとつ買うにしても、銘柄や値段にとらわれるな!必ず己の物差し、つまり心に響くホンモノを選ぶこと。これが人生を豊かにし、格好いい生き方の下地となるはずだ。己が定め、己が認める絶対的な基準。格好いい生き方を実践するためには、これが最低にして最高の条件となる。男は見た目よりも中身なのである。
(→)マエストロは自他共に認める仕事好き。「赤峰幸生」を作る仕事場は、いったいどんな場所?そんな疑問から、今月はマエストロの仕事場をこっそり覗き見・・・・・。すると、この日もせっせと仕事に精を出す姿をキャッチ!早朝にもかかわらず、スーツの原料といえる生地を黙々と眺めているではありませんか!「一日のうちで朝の光が最も透き通っている。だから、生地の良し悪しを見極めるにはこの時間帯が理想」。そんなふうに語るマエストロの目は、まるで大志を抱く若きビジネスマンそのもの。取材陣一同、終始感心させられっぱなしでした。今月で連載はひと区切りをつけますが、今後とも“格好いい生き方”をご指導いただく大先輩としてよろしくお願いいたしますっ!
Q.ひょえーっ!男は中身!やっぱりマエストロのトークは、切れ味が抜群です!それに、いいものを見抜く眼。これって相当な眼力がないと難しいんじゃないですか?
心を豊かにしてくれるものを見抜く方法。それは美意識のみに頼ったものにあらず。私は、靴下一足買うにしても、そのものが完成するまでに費やされた時間と手間に思いを馳せる。ブランドネームなど一顧だにしない。作り手の熱意や誠意が伝わってくるものを買う。合理性や利益のみを追求した掛け算の仕事ではなく、じっくり積み上げられた足し算の仕事。これには専門的な知識など必要ない。ひとつのものをじっくり見れば、誰にでもわかるはずだ。
これは、何も買い物だけに限った話ではない。今、世の中は「安い」「早い」「便利」ということに、異常な価値が置かれている。聞くところによると、最近の若者は映画館にも行かないし、酒場にも行かないという。酒は家でダラダラと飲んで、映画はソファにゴロゴロと寝転びDVDを観るというのが、主流になりつつあると聞く。そんな輩が本当に多いのであれば、これは大いに嘆かわしいことである。
映画館には映画の味を高める雰囲気があるし、酒場には酒場にしかない酒の匂いがある。吉行淳之介に「街角の煙草屋までの旅」という名エッセイがあるが、それこそ近所をぶらぶら歩くだけでも、自分次第で一度の旅に負けないくらい想像力を掻きたてられるものになるのだ。こうした機敏を味わうことが心を豊かにする。
最近は「ラグジュアリー」という言葉をよく耳にする。しかし、このラグジュアリーという言葉は、使う人によって趣が異なる、実に意味深長なものだ。今のメディアを見ていると、ただ価値が高いことだけがラグジュアリーであると言っている気さえする。由々しき問題を通り越して、情けなくなってくる。
私は「ラグジュアリー」とは、すなわち「時間」であると考える。すべてが高速化・合理化していくなかで、丁寧に料理されたものを食い、誠実な仕事がなされた道具を使って暮らす。イタリア語で言う「ファット・ア・マーノ」(手づくり)の精神。こういったものに囲まれた生活には、お金では決して買えない、心の贅沢がある。
Q.な、ななるほど〜っ!相変わらずマエストロの人生訓は尽きませんねぇ〜。では最後に、読書の皆さんにひとつ檄をお願いします!
この2年間、たくさんの読者の悩みに触れてきた。悩んでいる内容も実に多彩。些細なこともあれば、思わず唸ってしまう深い悩みもあった。そう、生きることは本当に難しいことだらけ。では、どう生きるべきか。私もいろんなことを言ってきたが、人生とは何であるかを、今もってわかっているわけではない。
ただ、ひとつ確かなのは、「心の声に耳を傾けろ」ということだ。人生を左右する決断の時、危機に陥った時、私は一度深く呼吸をし、自分がどうしたいのか、心に耳を傾けた。そして心の赴くままに正直に行動した。もちろん、間違ったことも損をしたこともあった。しかし、後悔は一片もない。私は小さいながらも会社を経営しているが、そんなものはただの結果でしかない。心の声に正直に生きることができれば、一文無しで、どこで何をしていようと、後悔など決してしないだろう。
もし今、行き方に悩んでいるなら、今一度、考えてほしい。周囲や誰かの価値観に頼ってなんとなく生きていないか?体面や見栄で生きていないか?思い当たる節があれば心の声を聞いてみてほしい。悩みの解決の糸口が、見えてくるはずだ。
文豪・井上靖は、晩年に「生きる」という作品を残している。ガンで生死の境をさまよった彼自身が、奇跡的に退院し、自宅で小さな庭を眺めていた。そこで木の枝や葉から地面に落ちる木漏れ日を見て、「俺も生きよう」と決心する。彼はその風景を小さい生命の音楽と表現した。
生命が喜びの声を上げる瞬間。皆さんにも、そんな瞬間があるだろうか。私はある。手塩をかけて作った服を、客が喜んでくれたとき、私の心には歓喜の音楽が流れる。生とは素晴らしい、と。人生は厳しいことだらけだが、たまにはそんな瞬間があるから、生きていけるのだと思う。
皆さんもそんな生き甲斐を見つけて“格好いい生き方”をしてほしい。不器用だっていいではないか。己の道を愚直に突き進むのだ。そうすれば、誰もがうらやむ男になるはずだ。
では、いつかまた会う日を楽しみにしているぞ。
「ばか野郎っ!」って何回言われても、これだけは忘れちゃいないよ!
−マエストロの“名言”語録−
●風呂場で素っ裸になって、肩書きや立場にとらわれずに見ず知らずの人と世間話ができる男になれ
2007年11月号「ジェントルマン」より
●「イイ女」を見分けたいなら、相手の目を見ろ。なぜなら“目”は化粧ができない。飾ることができないのである。
2007年12月号「女」より
●「水を飲む人は最初に井戸を掘った人のことを忘れるな」
2008年1月号「仕事観」より
●生きることにローギアを入れろ。トップギアで走ろうとするな。
2008年2月号「常識のズレ」より
●男の服は“薄口の味”で勝負するべきだ。
2008年3月号「男の審服眼」より
●「和の魂」で「洋を装う」、これが「和洋折衷」である。
2008年4月号「今どきアメリカン」より
●リーダーには大儀が必要である。
2008年5月号「上司の大義」より
●子供の目線で子供から学ぶ姿勢を持て
2008年6月号「父と子」より
●「品格」のある人とは、人に生かされていることを知っている。目の前の茶碗のごはんにありがたみを感じることができる。
2008年7月号「日本人の品格」より
●いつも親のほうを向いて生きよ。彼らとの絆を感じて暮らすのだ。
2008年8月号「最高の親孝行より」より
●今の「便利な幸せ」と昔の「便利ではない幸せ」これを両立させることが大切だ。
2008年11月号「感動力の高め方」より
●色彩感覚のセンスを高めるために「自然の色」を心して見よ
2009年1月号「芸術鑑賞のすすめ」より
注※夜の盛り場のネオンのような人工的な色を見ても、色彩感覚のセンスは養えない。身の周りにある自然の色こそが、本当に美しい色であるということ。
●格好よさを生み出す源は、あなたの“生き様”にある。
2009年3月号「格好いい男」より
●他人の褌で相撲をとらず、己がぶら下げている。“玉”の質で勝負しろ。
2009年4月号「褌」より
●20代はアリになれ、30代はトンボになれ、40代になったら仕事をしろ
2009年5月号「悩み力」より
注※20代はアリのように地面を這い回り、仕事の基礎を覚え足腰を鍛える。30代はトンボのように飛び、広い視野という複眼で世の中のあり方を見つめる。そでができれば、40代でホンモノの仕事ができるということ。
●男なら「往くは小道に寄らず」である。
2009年7月号「先人の言葉」より
注※注王道とは何かを常に探し、考え、その道をただ真っすぐに突き進むということ。
●昨日の常識は今日の非常識。
2009年9月号「個性の高め方」より
●人を口説きたいと思うなら、まず己を口説け
2009年10月号「男の口説き方」より
注※人を口説くというのは、まず己がそのコトやモノに対して納得できていなければならない。己を口説くとは、自分が本当に納得できているかを問う作業であるということ。
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2009年09月24日(木)
OCEANS 11月号連載 AKAMINE STYLE 目覚めよ、日本の男たち! [OCEANS掲載記事]
マエストロ赤峰の「オトナ相談室」
仕事、家庭、子育て、そして愛……などなど。
30〜40代のオーシャンズ世代にもなれば、少なからず何かしら悩みのタネは持っているもの。
そんな皆さまの“駆け込み寺”として開設されたのが、このオトナ相談室。
皆さんの質問にお答えするのは、“人生のマエストロ”こと赤峰幸生氏。
今月も痛快なご意見で迷えるオーシャンズ読者に救いの手を差し伸べてくれるハズ!
では皆さん、ご一緒に!教えてっ、マエストロ!
今月のテーマ
“男の落とし前”
[今月の質問]
赤峰さん、こんにちは。私は「いつか赤峰さんみたいな男になりたい」と憧れている33歳の男です。今回はどうか僕の悩みを聞いて下さい。僕は今、百貨店にあるスーツショップで販売をしています。しかし、先日、ケアレスミスを犯してしまい、お得意さまにご迷惑をかけてしまいました。内容は商品の発送ミス。お客様は当初お怒りでしたが、必死で謝罪したところ、なんとか許していただきました。しかし今後、仕事で何か失敗を犯したときのために、謝罪のコツのようなものを教えていただけないでしょうか? 対応のコツ、誠実な気持ちの伝え方など、いわゆる“落とし前のつけ方”をご教授いただけると幸いです。(33歳・百貨店勤務・東京都在住・Y・Iさん)
Q.マエストロ流の落とし前・・・・。そりゃ、強気一辺倒でしょうがっ!ビジネスは弱肉強食ですもん。こっちが失敗しても、謝ったら負け!そうですよね、マエストロ〜!!
この大ばか野郎がっっっ!「ビジネスで謝罪したら負け」だと!?どこで知ったか知らんが、貴様、そんな浅薄な理論を信じているのか? もはや怒りを通り越して情けない!
謝らないなどとんでもない。私に言わせれば、仕事がデキる男ほど落とし前のつけ方が達者な男である。考えても見ろ。どんな優秀な人間であっても、長年仕事を続けていれば、ミスは100%発生する。それに失敗をしないためだけに仕事をしている男に、大きなことができるわけがない。だから、仕事上のミスなど恐れるまでもない。たまに降る雨のようなものだと思えばいい。
ただ、最も重要なのは失敗したときの後始末のつけ方である。特に問題なのが、傷つけた相手や損害を与えた相手がいる場合だ。どうやって彼らに心を静めてもらうか。とはいえ、どんなにこちらが誠意を持っていても、相手に伝わらなければ何の意味もない。落とし前のつけ方には、さまざまな手段が存在するが、今回は赤峰流の落とし前のつけ方を話そう。
これは10年ほど前のことである。私にはフィレンツェに住むイタリア人の友人がいる。彼はスーツ工場の経営者で、なかなかいいものを作っていた。かねて「日本でもビジネスがしたい」と言っていた彼のために、私は日本にある有名ショップを紹介した。商談はトントン拍子に進み、彼の工場へジャケットの注文が大量にあったという。彼はたいへん喜んでいた。しかし、問題は納入後に起こった。商品に不具合があったのだ。私は「日本からの注文には、とにかく慎重に、徹底的に細かく対応しなくてはならない」と忠告していたのだが、それでも十分ではなかったのだ。
とにかく相手は怒り心頭であった。もちろん私も他人事ではない。それに彼の念願であった日本でのビジネスの道が閉ざされてしまうことは、なんとしても避けたかった。
イタリアにいる彼と電話で話したが、彼も「ユキオ、オレはどうすればいいだろう」と焦っていた。私は迷うことなく「今すぐ空港に走れ!」と言った。彼はそのまま飛行機に乗り、成田に到着。我々はその足で、すぐさま取引先へと走った。そして担当者に会うなり、私と彼は土下座をし、床に額をこすりつけたのだ。
・・・・どれくらいの時間が経っただろうか。我々の行動に相手側は唖然としていた。それから初めて、我々は問題が起こった原因と、これからの対処を述べたのだ。すると相手側は「もういいですよ。お互いに力を合わせて、乗り切りましょう」と言ってくれた。このことが信頼関係を築くきっかけとなり、今でも彼とその店の関係は続いている。
(→)ビジネスにおいて、一分のスキも見せないマエストロのスーツスタイルは、英国人の友人をして「英国人よりも英国人」と言わしめるほど。しかし、この日は、ヘインズのトリムTシャツにコーデュロイの5ポケットパンツ、そして足元はオールスター。我々が目を疑うようなカジュアルなお姿で登場したのでした。そして、呼び出されたのは東京は神保町にある老舗のラーメン屋。まだ昼食には早い時分・・・・、そう思ったのも束の間。なんと、マエストロ自ら厨房に立ち、麺を茹で始めるではありませんか! そう、今月のマエストロは中華そば「伊侠」の店主、沢木さんの指導の下、ラーメン作りに挑戦。自宅では自ら台所に立つこともしばしばというだけあって、ネギを刻むその手つきは手慣れたもの。自らが作ったラーメンをわずか5分で平らげ、終始ご満悦の様子でした。
Q.え〜! マエストロが土下座を!?しかも、友達のためにっ!こ、これは、熱すぎますっ!やっぱり、日本人としては、土下座は最大の武器ですねっ!
このスカタン野郎っっっ! !お前はこの話の本質を毛の先ほども理解しておらん!黙って聞いておらんか!
話のポイントは3つある。第1に「スピード」。問題が起こったら、1分1秒でも早く現場へ急行することだ。問題は時間を経るごとに大きくなり、収拾が難しくなる。それに損害を受けると人間は不安に陥る。だから、損害を与えた相手の反応が遅ければ遅いほど、被った相手はどんどん頭に血が上っていくのだ。
余談だが、昔、港区にある某有名ホテルでパンを買って帰宅したところ、パンの中にビニールの切れ端が混入していたことがあった。ホテルに連絡したところ、10分もしないうちに総支配人が玄関に立っていた。ミス自体はお粗末だが、このあたりはさすがだ、と私は思った。スピードは誠意を表わす有効な手段のひとつなのだ。
第2に「意外性」。イタリア人が一目散にかけつけ、土下座をする、という意表を突いたケジメのつけ方こそが、相手の心を打ったといえる。強い気持ちを相手に表現するためには、「ここまでやるか!」と思わせる何らかの工夫が不可欠である。それには意外性が重要な要素となるのだ。ただし、これを奇をてらうことと混同しないようにくれぐれも注意はするように。
これも余談になるが、意外性がいかに凄まじいものかを実感するこんな話を聞いた。仲のいい友人の体験談なのだが、彼が3年前に新宿の、とある飲食店に入った。味噌汁をいっきにたいらげたところ、なんとゴキ○リ(ご想像にお任せする)の死骸が姿を現したという。怒り心頭に発した友人が店主に抗議したところ、なんと、「これはダシですよ」と言い張る。とんでもない言い訳に一瞬ひるんだが、友人はさらにがんばった。「そんなわけねえだろうが! どう見てもゴ○ブリじゃねえか!」「いえ、これはダシです」と、同じやりとりを10分ほどしたそうだ。そして突然、店主は「わかんない人ですね。ほら」と言って、ゴキブ○を取り上げ、むしゃむしゃ食ってしまったという。友人はあまりの顛末に、怒りさえ忘れてしまったという。当然、証拠は消えた。店主はとんでもないヤツである。もしかすると、この店主は、人間同士のやりとりで、いかに意外性が重要かを熟知した、ツワモノであったのかもしれない。
そして落とし前のつけ方に欠かせない第3の要素が「説明」である。なぜそのトラブルが起こったか、原因を明らかにする。これは頭の中で処理せずに、きちんと紙に書き出すといい。まずは、原因と思われる事柄を箇条書きにする。次にひとつひとつにどう対処すればいいかという、これからの対策を書いていくのだ。そして今回のミスに対する現実的な処理。理想としては、謝罪に向かう際に用意して行きたいが、間に合わないなら、時間をもらって後日でもいい。既に述べたとおり、とにかく現場へすっ飛んでいくことが重要なのである。
これは私の話だが、数年前、寿司の出前を取ったところ、吸い物に大きな虫が入っていたことがあった。驚いた私はすぐさま店に連絡したが、謝罪に来たのは出前を担当している青年であった。彼が事情を知る由もない。私はただ、何度も出前し、美味い寿司を食わせてくれていた店が、なぜこんな失敗を犯したのかを知りたかっただけだ。何にも知らない若僧に、「すいません」と言われても何の意味もない。その後、もちろんオヤジを呼んで叱責したが、残念ながらこちらの謝り方も形式ばったものであった。この説明なき謝罪こそが、傷つけられた人の心情を逆撫でする“平謝り”というやつなのだ。
Q.なるほど。落とし前に必須なのは、「スピード」「意外性」「説明」。でも、犯した失敗が大きいほど冷静になれないもんですよね?
うむ、それはそれでいい。パニックになるほど感情的になってもいけないが、反対にクール過ぎても相手に誠意が伝わらない。相手の心情を鎮め、なおかつスムーズに問題を解決するには、「七割の熱意と三割の冷静さ」をキープすることが大切だ。
当然だが、仕事には保険がない。だからといって、失敗を恐れて何もしないのは、それこそ情けないことだ。失敗したら、きっちり落とし前をつけて次へ進むだけのこと。
そもそも本当の男の仕事には、失敗というものすらないと私は思っている。困難を前にして、挑戦することをやめてしまうこと。それこそが唯一の失敗なのだ。
−近ごろのマエストロ−
突然だが、私は恋をしている。しかも、会ったこともない女性にだ。彼女の名は黒木メイサ。フジテレビ開局50周年ドラマ『風のガーデン』で初めて知ったのだが、その凛とした眼差しに私の目は釘付けになった。彼女の作品をいろいろ見たが、とにかくすべての表情が素晴らしい。彼女の目の光には、男の心を波立たせる何かがある。機会があれば、気の利いたバーで、マティーニでも一緒に飲みたいものだ。ん?年甲斐もないだと? ふむ、では皆さまにこんな言葉を教えよう。「一人の女しか愛さない男はしばしば最も幸福な生活を送るが、死ぬときは最も孤独な死に方をする」。ヘミングウェイの言葉だ。私は生涯、恋をし続けるつもりだ。
昔ながらの中華そばが楽しめるお店!
東京は神保町に店を構える「伊侠」は、創業して40年以上の歴史を持つ老舗ラーメン屋。カウンターだけの店内は、昭和のムードたっぷり。そして、ご主人の沢木さんが作るラーメンは、昔ながらのあっさりとした醤油だしの中華そば。小手先で勝負しない、王道とも呼ぶべきその味は、一度食べたら病みつきになること必至です。皆さまも、ぜひ味わってみてください。
「中華そば 伊峡」
電話/03-3294-0279
住所/東京都千代田区神田神保町1-4
営業/11:30〜15:00、15:30〜19:30(土曜のみ〜18:30)、日曜・祝日定休
■皆さんからの質問待ってます!
仕事から家庭、恋愛、そしてファッションetc.・・・・・・、日ごろ読者の皆さんが抱える悩み、疑問など、相談したいことを何でも教えてください。マエストロ赤峰がズバッと解決いたします!本誌ホームページ[ www.oceans-ilm.com ]へアクセスのうえ、トップページから投稿してください。
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2009年08月24日(月)
OCEANS 10月号連載 AKAMINE STYLE 目覚めよ、日本の男たち! [OCEANS掲載記事]
マエストロ赤峰の「オトナ相談室」
仕事、家庭、子育て、そして愛……などなど。
30〜40代のオーシャンズ世代にもなれば、少なからず何かしら悩みのタネは持っているもの。
そんな皆様の“駆け込み寺”として開設されたのが、このオトナ相談室。
皆さんの質問にお答えするのは、“人生のマエストロ”こと赤峰幸生氏。
今月も痛快なご意見で迷えるオーシャンズ読者に
救いの手を差し伸べてくれるハズ!
では皆さん、ご一緒に!教えてっ、マエストロ!
今月のテーマ
“男の口説き方”
[今月の質問]
こんにちわ。いつも赤峰さんのお言葉に勇気をもらっている32歳の男です。今回は私の悩みを聞いていただけないかと思い投稿しました。最近、あるメーカーの営業に転職したんです。前職はゲームプログラマー。ひとりでコツコツとやる作業が好きで始めた仕事だったんですが、昨今の不況の影響もあり一年発起して現職に。営業という仕事に携わること自体が初めてでもあったんですが、正直に言って、成績がまったく振るわないんです。上司からは「お前はその場のノリはいいが、最終的に相手をその気にさせる力がない」と言われています。今後のために、ぜひ人を口説く秘訣を教えていただけないでしょうか?(32歳・メーカー勤務・東京都在住・K・Yさん)
Q.人の口説き方ねぇ.....。大事なのは熱い気持ちでしょっ!あんまり堅く考えないで、女性でも一生懸命口説きましょ!そうですよね、マエストロ!
そうそう男なんか放っといて、女の子に血道を上げて・・・・ってこの大ばか野郎がっっ!貴様、この暑さで脳みそが蒸発しちまったようだな。思わずノッてしまったではないか。
社会に出れば、面接や取引先や客のやり取りはもちろん、上司や部下との関係、そして結婚・・・・。投稿者も関心を持たれているように、人生を切り拓くには人を口説き、その気にさせなければならない場面がたくさんあるのだ。
私は28歳のときにアパレル会社を立ち上げた。自分で会社を興して改めて気付いたが、仕事はまさに口説きの連続であった。服をつくる工場の職人、服を販売する販売店のバイヤーたち、彼らに動いてもらわなければ、仕事は一歩も進まない。しかも当時の私には、何の後ろ盾もない。まさに徒手空拳で、相手を口説き、その気にさせなければならなかった。
Q.うひょ〜。もしやそこで伝説とまでいわれるマエストロの営業トークが炸裂するわけですね!一体どんなサクセスストーリーが聞けちゃうんでしょうか!?
このスカタン野郎が!!私の人生にサクセスストーリーなどない。あるのは、無数の失敗から学んだ大切な財産だけだ。あれは忘れもしない、30代の半ばころのことだ。コンサルティングの仕事に携わっていた当時、あるアパレル会社との取引の話が舞い込み、喜び勇んで打ち合わせに臨んだ。相手は名のある企業であったが、当時のビジネスは順調で、私は一歩も引くことなく交渉を重ねた。しかし、なかなか相手は首を縦に振らない。粘り強く交渉を重ねたが、最終的に相手の担当者からこんなことを言われた。「話はもうわかった。君は一体いくら欲しいんだね?」。私はその言葉を聞いたとき、「これは負けだ」と直感した。契約の話にばかり気を奪われ、相手の信頼を得るという最も大切なことをおろそかにしてしまっていたのだ。これでは、無礼なことを言われても返す言葉も見つからないはずである。私はこのことを機に、自分の営業スタイルを徹底的に見直すことにした。
第一に欠点やデメリットも包み隠さずに伝えるように努めた。つまり「できないことはできない」ときちんと言う。例えば洋服のお店に行くとしよう。あなたが店員に「この服は○○には似合うか?××の場面で着られるか?」といくつか質問をする。そのとき「もちろん似合います!」「もちろん、どこでも使えます」とオウムのように繰り返す輩を果たして信頼できるだろうか?人の心理としては「この商品はこういうときは最適ですが、こういうときにはあまり使えないんです」と正直に言ってくれる人物を信頼するはずだ。つまり、営業する商品の長所と同じように短所も伝えることがとても重要なポイントなのである。
第ニに現場を深く知ること。商品をひとつ売るときにも、そのものが作られている現場を知らないと、その説明はすべて表面的になってしまう。私は工場にお邪魔し、自社の服が作られている工程を一から十まで見せてもらった。そして「ここの工程は面倒だけどね、着心地がよくなるんだ」といった職人さんの言葉を頭に叩き込んだ。こうした現場の生きた言葉は、営業先で自分の商品を説明する際に最高の武器となった。そして何より、自社商品の「価格の理由」についても理解することができた。皆も同じではないだろうか。何か買い物をする際、その値段の理由を納得できることが、購入を決める大きな決断理由となるはずだ。
よく会社に来るセールスマンでも、人の会社のことをよく調べてくる輩がいる。しかし、そういう輩に限って、自社商品のことをほとんど知らなかったりする。これこそ本末転倒である。顔を洗って出直して来い、そう言いたい。
(→)今月、マエストロが挑戦したのは、なんとロデオマシーン。マエストロが纏うGジャンは、1959年にデビューした「リー」の名作ウエスターナー。登場するなりカウボーイたちのお洒落アイテムとして定着した、不朽の名作であります。ボトムスは、「リーバイス」の501XX。そして、Tシャツは「ヘインズ」のヴィンテージ。いずれもアメリカのウエスタンな気分たっぷりの出で立ち。そこに、イタリアで創業した「スペルガ」のスニーカーを合わせるあたりは、やはり只者ではありません。荒れ狂うマシーンに跨り、振り落とされそうになりながらも必死の形相で耐えるマエストロ。僕らは決してその勇姿を忘れることはないでしょう。
Q.す、すごい、すごいっすよ!!お店にそんな店員さんがいたら納得して買い物ができるはず!もしや、コレをマスターしたら、出世街道まっしぐら?ひょえー!
このツルセコ野郎がっっっ!お前は、そうやっていつもお手軽に答えを知ろうとする。まったく気に入らんが、今回ばかりは読者のために、私流の営業について少しだけ話そう。
例えば、一枚のジャケットを売るとする。私の場合、まず世間話から入る。これは、「カウンセリング」にあたる。天気でもスポーツの話でもなんでもいい。そこで、その人物と生活観、価値観を探るのだ。
次に自分の商品が体現する「文化」を語る。私の服が持っている文化とは、英国やイタリア、日本文化に通じる「本当にいい服を末永く着ること」だ。この魅力をストーリー仕立てにして話す。「あなたはいま32歳。しかし、これから30代、40代と過ごしていくにつれ、結婚もするし、子供もでき、オフィシャルな場面に遭遇する機会も多くなるはずです。そんなとき・・・・」と、この服がその人の生活の中でいかに役立ち、長く着られるものかを想像してもらう。このとき、先にも述べたとおり「このジャケットは比較的カジュアルなデザインなので、こういう場面ではおすすめできません」とはっきりとデメリットを伝えておくのも重要だ。
そして興味を持ってもらえたら、そこで初めて商品の説明をするのだ。ここで言いたいのは、興味を持つとは、私のジャケットが体現する文化と相手のライフスタイルが重なり合うことだ。双方が重なり合って初めて、商品の説明が効果を持ってくる。ディテールや生地、フィット感、自社商品にしかない魅力を伝える。もちろん、それだけの値段が付く理由もだ。あとは買う側に判断を委ねるだけだ。
そもそも、この営業スタイルは英国やイタリアでの老舗テーラーではごくごく当たり前のことである。だが、大量消費や合理性ばかりが重視されていくなか、こうしたやりとりがいっきに失われたのだ。
今まで私はこのスタイルで、ひとりひとり顧客を増やしてきた。人間味を大切にしたこうした接客方法は、洋服の販売に留まらず、さまざまな仕事で必ず役に立つはずだ。
Q.な、なるほど、さすがですっ!では、お次はぜひマエストロの巧みな営業トークを聞かせてくださいよっ!ぜひパクリ・・・、いや参考にしたいんです!
トンチキ野郎っ!!貴様にはまだわからんだろうが、人を口説くよりももっと難しく、大切なことがある。それは、自分を口説くことなのだ。
私は40代の後半に、ある大企業からコンサルティングの依頼を受けた。プレゼンは大成功し、「ぜひ」とのことだった。だが、私は最初から、その企業のスタイルが私の信条にそぐわない気がしていた。しかし、契約金は破格とも言えるものだった。
しかし、私は悩んだ末に辞退した。決断させてくれたのは、池波正太郎先生の著書に出てくる登場人物たちだ。鬼平にしろ真田幸村にしろ、世間の価値観や権力に縛られず、己の中の掟や美学に従って生き抜いた魅力的な人物だ。金ではない。私も彼らのように自分を貫き、爽やかに生きよう、と思ったのだ。私は彼らの生き方を自らにプレゼンし、自分を口説いたのだ。辞退したのは、その結果である。
私は後年になって、自分を口説くことの大切さをしみじみ実感した。あのとき誘いに応じていれば、会社は一時的に大きくなったかもしれない。だが、私の中で、確実に何かが損なわれてしまったはずである。生き方の芯を失うことは、男にとって何よりも情けないことだ。
自分を口説くことは、己が本当に納得しているかどうかを問う作業である。ある商品に自分が納得していなければ、それを売る相手を説得するには不十分であろう。つまり、人を口説きたいと思うなら、その前にまず自分を口説けということである。
「人間の数ある才のなかで、私は説得力に一番高い値段を付けたい」。あのロックフェラーがこんな言葉を残している。人を、そして自分を口説くことを。その秘訣をひと言で言うなら、私は腹を割ることだと思う。そしてそこから生まれる本音こそが人を動かす。それで失敗したら、それまでのこと。己を疑うことさえなければ、必ずや、次の好機をものにできるはずだ。
−近ごろのマエストロ−
先日、イタリアからアントニオ・リベラーノがやって来た。彼はフィレンツェのテーラー「リベラーノ&リベラーノ」の店主で、私の30年来の親友である。日本に来ると必ずふたりで酒を飲む。話題はたわいのない話がほとんどだが、珍しく服の話になった。私は彼に問うた。「イタリアや英国のように、洋服のジャパンスタンダードはなぜ生まれないのか」。リベラーノは黙り込み、やがてひとつの回答を口にした。「スタンダードとは継続である。しかし、日本にはものや情報が溢れすぎ、スタンダードを確立する環境にないのではないか」。至言である。目の前の流行を追いかけていては、決してスタンダードは持てない。自国の文化や自身の内面に向かうオリジナリティ。これこそがスタンダードの源となるのだ。
カウボーイ気分で堪能するテックスメックス料理!
今回の撮影で訪れたのは、東京・恵比寿にあるテックスメックス料理の老舗。400席もある店内は、アメリカ西部やメキシコのキャンティーナ(酒場)を思わせる、活気と陽気溢れる空間だ。ハンバーガーやホームメイドタコス、グリル料理など、ボリューム満点の料理や、豊富なドリンクが楽しめる。注目は、店内に設置された本格マシーン。毎週、日曜日の夜9時ごろになると「ロデオ・ナイト」が開催される。詳しくは以下に確認してください。
「ゼスト キャンティーナ 恵比寿」
電話/03-5475-6291
住所/東京都渋谷区恵比寿1-22-19
営業11:30〜29:00
[ http://www.zest-cantina.jp ]
■皆さんからの質問待ってます!
仕事から家庭、恋愛、そしてファッションetc.・・・・・・、日ごろ読者の皆さんが抱える悩み、疑問など、相談したいことを何でも教えてください。マエストロ赤峰がズバッと解決いたします!本誌ホームページ[ www.oceans-ilm.com ]へアクセスのうえ、トップページから投稿してください。
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2009年07月24日(金)
OCEANS 9月号連載 AKAMINE STYLE 目覚めよ、日本の男たち! [OCEANS掲載記事]
マエストロ赤峰の「オトナ相談室」
仕事、家庭、子育て、そして愛……などなど。
30〜40代のオーシャンズ世代にもなれば、少なからず何かしら悩みのタネは持っているもの。
そんな皆様の“駆け込み寺”として開設されたのが、このオトナ相談室。
皆さんの質問にお答えするのは、“人生のマエストロ”こと赤峰幸生氏。
今月も痛快なご意見で迷えるオーシャンズ読者に
救いの手を差し伸べてくれるハズ!
では皆さん、ご一緒に!教えてっ、マエストロ!
今月のテーマ
“個性の高め方”
[今月の質問]
赤峰さん、はじめまして。今回、ぜひ聞いていただきたい悩みがありまして投稿させていただきました。私は今、食品を扱う商社に勤めています。最近、上司から「お前には個性がない。そんなことではうちの会社ではやっていけない」と言われてしまいひどく悩んでいます。確かに私は見た目も地味で目立つほうではありませんが、それと仕事は別問題。ですが、そうは言っても何をどうしたらいいかわからないんです。どうしても上司に「個性のある男」と認めさせたいと思っています。そもそも「個性」とはなんでしょう?はたして私は、今から自分の個性を高めることができるんでしょうか。赤峰さん、どうか教えてください。(32歳・商社勤務・埼玉県在住・I・Hさん)
Q.なるほど〜。この質問は簡単です!やっぱり恋でも仕事でも、世の中目立ってナンボ。とにかく目立つことが大事です。ねぇ、マエストロ?
いきなり飛ばしてきやがったな!この大ばか野郎めがっ!!真の個性はお前が言うような単純なものでは決してない。個性とは「個人を個人たらしめる特徴」である。ただ、奇抜な格好や言動をするだけの個性は、単なるメッキに過ぎない。真の個性とは、内から滲み出るものだ。
近年、急に世の中は口を揃えて「個性が大事だ」と言い始めた。その大きな原因は、まず、国際社会においても「横にならえ」で済む時代が終焉を迎えた点にある。日本も国際関係において、個の意見と立場を鮮明にすることが、強く求められている。
そして百年に一度の大不況。企業は生き残りをかけ、リストラを行っている。これは今までに何度も述べたが、必要な人材だけを残す、という会社のダイエットともいえるものだ。その惨状はご存知のとおりである。また、“婚活”というムーブメントからも推し量ることができるように、恋愛においてもそれと同じような動きが起こっている。三十歳を前にしても結婚はおろか、彼女が一度もできたことがない、という成人男子が急増しているのだ。
このように、あらゆる面で競争が激化し、格差が生まれている。どんどん過酷さを増していく現代社会で、生き残っていくためには、真の個性がものを言うことになる。
Q.競争社会で生き残るための個性・・・・。こりゃ、想像より深刻ですねぇ!こうなると、今すぐ個性が必要です!でも、日本は没個性の国ですよね。そう一筋縄にはいかないんじゃ……。だから、てっとり早い方法を教えてっ!
オレはドラえもんじゃねぇんだっ!!てめぇの個性がポケットから出てくるわけねぇだろうが!個性を高めることは一朝一夕にはかなわない。ご存知のとおり、日本は古くより協調性や礼儀作法を重んじてきた。その積み重ねが日本文化を発展させたのは確かな事実だ。しかし、一方で「出る杭は打たれる」という言葉が示すように、競争社会にうまく適応できない環境を作り上げてしまったのも事実だ。ここ日本では、極めて個性が育ちにくいのである。とはいうものの、社会は日々変化している。現代は昨日の常識は今日の非常識となりうる時代である。この旧態依然とした社会システムのなかで、国や企業そして個人が、崩壊しつつある価値観の中に、未だどっぷりと浸かっているのが現状なのだ。日本の社会はこれまで同一化、同質化を求めてきた。個性を高めるためには、まずそこから脱却しなければならない。それが、変革の一歩となるはずだ。必要なのは常識にとらわれずに行動すること。そして、そのためにリスクを冒すことだ。個性、個性と嘆く前に、あなたがリスクテイクに対して臆病になってはいないだろうか、それを己に問うてみよ。
(→)「食わず嫌いをしない」ことを信条とするマエストロ、今月はなんとDJに初挑戦!!フランク・シナトラを思わせる、涼しげなサンドベージュのコットンスーツに身を包みながらプレイする様子は、とっても絵になっていました。場所はブラックミュージックの聖地とも呼ばれる、マンハッタンレコード。「ヒップホップにはあまり詳しくないが、クラシックやジャズと同じように味わい深いものがある。心の奥を刺激してくれるような、この熱い感じがいいね」と、現場でもノリノリ♪ 常に好奇心が旺盛で、何事にもチャレンジしていくマエストロのコメントには、言葉の力を超えた説得力を感じました。また、いつかどこかでDJ AKAMINEのプレイを目にする日が来ることを祈っています!
Q.なるほど、リスク・・・・ですか。そこまで考えが及びませんでしたっ!今や他人と同じでは、ダメなんですね。マエストロ、それってもしかして幼少期からそんな風だったんですか?
その質問に答えるなら、イエスだ。私の今があるのは、幼少期からある種のはみ出し者だったことが幸いしたと思っている。小学生のころから、「僕も仲間に入れて」のひと言が言えなかったし、皆に合わせることが苦痛だった。だから、いつもひとり。私の友達相手はもっぱら虫や草木、自然だった。幼年期を過ごしたころの東京は、まだまだ自然が残っていた。私は皆が見たこともない虫を捕まえ、巨大なザリガニが捕れる秘密の場所を見つけるのに没頭した。そしてそのことで、クラスの連中から一目置かれるようになった。そして、幼心に知ったのだ。「誰も知らないことを知っていること、皆と違うことが、集団の中でいかに力を持ち得るか」ということを。
そして家に出入りしていた叔父の影響もある。叔父の名は、清水幾多郎という。戦後の講和問題や基地反対運動、’60年代の安保反対運動に至るまで、論壇の中心にあった社会学者である。平和主義・民主主義の立場から積極的に発言し、行動したことで知られている。普段はいかにも学究の徒といった控えめな大人しい人物だった。そして人と交わることを好まず、いつも孤独だった。しかし、社会問題に関しては、鬼気迫る反骨精神をもっていた。群れることもなく、徒手空拳で世の中と渡りあう姿を目の当たりにし、子供ながらに格好いいと思ったものだ。
その後、高校生になり、私はヤンチャもしたものだ。その頃、私はある愚連隊の頭になっていた。もちろん腕っ節には自信があったが、私より強い奴はグループの中にわんさかいた。なぜ、私がリーダーになったのか。それは簡単だった。私の考え方が、独自だったからだ。あるとき、数に勝る巨大な連合が、「傘下に入れ」と圧力をかけてきたことがある。不良といえども、結局、「みんな同じ」に安心を覚えるのだ。周囲のグループは、こぞって連合に入った。しかし私は絶対になびかなかった。『みんなと同じで安心できるなら、ツッパる意味はない』と思ったからだ。おかげで危険な目にも遭ったが、吸収されたグループを見限った不良たちが私を慕ってきたとき、心底うれしかった。「何事も人を違うことをする」。この考え方が私の基盤となった。
Q.ななな、なんですって〜!?マエストロがボスとは、これはもうほとんどマフィア映画の世界・・・・。つまり、男一匹で生き抜くためには個性が必要ってこと?(ブルブル)
てめぇっ!!たまには的を射たことを言うじゃねぇか!調子が狂うだろうが。まあ聞け。私は大学を出て、アパレルの会社に就職した。それは、「純粋に好きなことでメシを食いたい」と思ったからだ。
当初、技術的にはもちろん何もできず、青臭い不良のプライドは叩き潰されたが、心根で突っ張ることは忘れなかった。だから企画は常に人とは違うものを提案した。笑われようが生意気だと思われようが、それは覚悟の上だった。やがて孤立していった私だが、大川さんという上司が、私の心意気を買ってくれた。彼がこんなことを言ったことがある。「赤峰君、人と違うことをするには勇気が必要だ。それはひとつの偉大な才能だと思う」と。
私は28歳でアパレルの会社を立ち上げた。同時期に同じような会社は数え切れないほどたくさんあったが、現在、ほとんどが残っていない。その理由をよくたずねられるが、私はただ、人と違うことを続けてきただけだ。空前のアメトラブームのときは、脇目もふらず、ひたすらイタリアの服をつくり、スーパー150’sの極薄のしなやかな生地が流行すれば、スーパー30’sの極厚の生地を提案する、といった風に。だからこそ、生き残れたのではないかと思う。
振り返ってみれば、学校や組織で教わったいわゆる常識など、個性を伸ばすには何の役にも立たなかった。私は学校や組織以外の個人的な付き合いのなかで、個性の力を学び、育んできた。そして人生やビジネスで迷った時は、いつも前人未到の道を選んできた。同じ目的を達成するにしても、効率を度外視し、あえて遠回りの道を行く。時間はかかるし、苦労もする。しかし、その道に転がっている無数の石ころこそ、後々の人生で役に立つ個性の素になるのだ。
「個性とは何か?」と問うこの読者に言いたい。個性をひと言でいうなら、「ツッパってきた結果」である。あなたの中に今までツッパり通してきたものがあるか?あるなら、それこそが個性だ。まだそれがないようなら、これからツッパり通してみればいい。小さなことからでいいのだ。そして、勇気を持ってリスクを冒すこと。この勇気こそあなたを歩ませ、個性を高めてくれる。そして、必ずや社会と対峙するための武器となるはずだ。つまらない常識が、いつなんどき、あなたの道を阻むかもしれない。だが、己を守り、この社会で生き残るために、何としても守り通さなければならない。そう、個性とは“武士の刀”のようなものなのだ。
−近ごろのマエストロ−
最近、リクルートのファッションについても、意見を求められることが多い。その際、私はいつも「着る人八分 洋服二分」と答える。私も自分の会社で新入社員の面接をすることがあるが、別にきちんとしたものを着ていれば、ありきたりなスタイルでも構わない。
ニ十数年ほど昔、ハリスツイードのスリーピースを着て面接に現れた青年がいた。驚いたのは、その服装が斬新だからではない。服が彼に似合っていたからだ。いざ話を聞けば、彼の服に対する情熱に、再び度肝を抜かれた。だからこそ、似合うのだ。彼らは私の会社で個性を伸ばし、独立していった。ただ目立つだけでは意味がない。ひと言話せば、それがうわべか、哲学に基づいたものかどうかはすぐにわかるからだ。
ただ、面接に臨むときは、「自分らしい服」ということを主眼に置くべきだ。それが正解であると思うし、第一、失敗しても後悔はしないはずである。それが男の、潔い身なりといえるものだ。
あの老舗で最先端ミュージックシーンを体感!
渋谷のランドマークとしても有名な、老舗レコードショップ、マンハッタンレコード。2009年で創業29年目を迎える同店は、去る1月にリニューアル。店内にはアナログレコードはもちろんのこと、CDや最先端の音楽機器、アーティスト関連グッズなどが揃う。王道のヒップホップやR&Bを中心に、ロックやハウス、レゲエなど、独自の目線でセレクトされた幅広いジャンルの音楽を体感しよう。
「マンハッタンレコード渋谷店」
電話/03-3447-7166
住所/渋谷区宇田川町10-1 木船ビル
[ http://manhattanrecords.jp ]
■皆さんからの質問待ってます!
仕事から家庭、恋愛、そしてファッションetc.・・・・・・、日ごろ読者の皆さんが抱える悩み、疑問など、相談したいことを何でも教えてください。マエストロ赤峰がズバッと解決いたします!小誌ホームページ[ www.oceans-ilm.com ]へアクセスのうえ、トップページから投稿してください。
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2009年06月24日(水)
OCEANS 8月号連載 AKAMINE STYLE 目覚めよ、日本の男たち! [OCEANS掲載記事]
マエストロ赤峰の「オトナ相談室」
仕事、家庭、子育て、そして愛・・・・・・などなど。30〜40代のオーシャンズ世代にもなれば、少なからず何かしら悩みのタネは持っているもの。そんな皆さまの“駆け込み寺”として開設されたのが、このオトナ相談室。
皆様の質問にお答えするのは、“人生のマエストロ”こと赤峰幸生氏。
今月も痛快なご意見で迷えるオーシャンズ読者に救いの手を差し伸べてくれるハズ!では皆さん、ご一緒に! 教えてっ、マエストロ!
今月のテーマ
“人情の機微”
[今月の質問]
赤峰さん、いつも「生きる手本」として、この連載を楽しみにしている36歳の男です。ぜひ聞いていただきたい悩みがあり投稿させていただきました。私は都内で小さなIT関連会社を経営しています。当初は友人と始めた共同経営でしたが、お金の面で話がこじれ、彼は社を去り、同業の会社を立ち上げました。当初は順調だったようですが、この春、不況の煽りを受け、多額の負債を抱え倒産したことを知りました。かつては得意先を奪われて、私も窮地に立たされた苦い思い出もあります。ただ一方で、昔から一本気で、愛すべき男友達でもあります。正直な気持ちを言えば、今、何かの力になりたいと思っています。しかし問題は、彼は自尊心が人一倍強いので、下手なことをして彼のプライドを傷つけてしまわないか、ということです。私は男として、彼とどのように接するべきでしょうか?どうかご教示をお願いいたします。(36歳・埼玉県在住・IT会社勤務・T.Y.さん)
Q.窮地に立つ友人にできること・・・・。まあ、だけど事情を考えると向こうから連絡があるまでそっとしておけばいいのでは?彼もいい大人なんだし、そうでしょ、マエストロッ?
しょっぱなからてめぇは頭痛がするほど大ばか野郎だなっ!!
貴様という奴は、すっかり現代の毒に侵されきっている。いいかよく聞け!時代の移ろいとともに失われつつあるが、日本には「機微」という言葉があるのを知っているか。それは「表面からは捉えにくい微妙な事情や趣」という意味であるが、機微というものは、昔から人間関係を築くうえで、重要な役割を果たしてきた。先んじて相手の心情を読み取り、心を尽くした振る舞いをなす。今やなんでも利害関係で割り切ってしまう希薄な人間関係が増えつつあるが、人生をより豊かなものにするためには、この人情の機微をしっかりと理解することが重要なのだ。お前はそんな大切なものをまるっきり理解していない。そんな先には、むなしい人生しか待っていないと心得よ。
Q.う〜ん、キビといわれても・・・。では、こんなケースの場合、早々に彼の好物やお金を贈ってあげればいいですかね?熱い励ましのメッセージを同封すれば完璧?もしや、キビキビやれって意味?
当代稀に見る大ばか野郎だな、お前はっ!!赤の他人ならつゆ知らず、窮地に立たされた男友達に、そんな安直で形式ばったことが心に届くと思うのか!?機微というのはもっと深みがあって繊細なものだ。
たとえば、私が父から学んだ機微にはこういうものがある。前にも話したが、父は学者で、欲というものがまったくない清廉な人間であった。そんな父に年に数回、決まって同年輩の友人が訪ねてくる。大学の同窓生で画家だというその友人が来たときにだけ、父は家で酒を飲んだ。卓袱台のそばに清酒の一升瓶を置き、つまみはノリと佃煮といったものだが、質素な父にとっては心づくしのものであっただろう。
私は普段厳しい父が、相好を崩して酒を飲む姿を見るのが好きだった。とはいえ、ときどき隣の部屋からこっそり覗き見るだけだったが。そんなある夜、こんな光景を目にした。二人は急にしんと黙り込み、二人は目を伏せる。そのとき、父は封筒をそっと差し出した。無言で友人がそれを受け取る。後年、その友人は、家に金の無心をしにきていたことがなんとなくわかった。返済はおそらく一度もなかったが、父の不満はひと言も聞いたことがない。
作家の菊地寛は友人から金を無心されると、着物の袖に入れていた金すべてを差し出したという。返済は求めなかった、とはいえ、袖にいくら入れているかはあらかじめ計算済みである。返ってこなくても惜しくなく、また、相手が重荷にならない程度の金額をいれておいた、といわれている。そう、これはこれは友情を守るためのひとつの機微だったのである。
父が友人に貸していた金額もまた、返ってこなくても家計には響かない金額だったはずだ。古い友人が訪ねてくると、金を借りに来たとわかっていても、宴を張る。相手が気を使わない程度のささやかな宴である。訪ねてきた友人への礼儀でもあったのだろう。そしてお互い気持ちよく酒を飲み、帰り際、自分の身が痛まない程度の金を無言で渡す。だからその友人は、父に対して一度も卑屈な態度をとる必要がなかったし、父のほうも望んでいなかった。
私がすべてを理解したのは、もう大人になってからだった。父のように機微を細やかに捉えた振る舞いはなかなか真似できるものではない。それに、決して無理をしろということではない。ただ相手を思いやり、その気持ちをそのまま行動に移すこと。これが、人情の機微を理解するうえでの基本でありすべてなのだ。
(→)日本男児として、洋装と同じように和装にも精通するマエストロ。今月は夏を目前に控えた時期ということもあって、なんと浴衣に身を包んで登場。新潟は小千谷産のちぢみを使った浴衣は、今回の取材協力をいただいた銀座もとじで7年前に誂えた一着とのこと。ちぢみといえば、西洋でいうシアサッカーにあたる生地で、肌への接地面積が少ない涼しげな着心地が特徴。装いにおいても季節感を楽しむマエストロらしい選択でした。着付けは銀座もとじの当主、泉二弘明さんによるもの。「浴衣の命はなんといっても角帯。横から見ると分かりやすいのですが、後上がり前下がりになっているところが、浴衣を粋に着るときの最大の秘訣です」とは泉二さんの弁。マエストロは「浴衣や着物を着ると、立ち居振る舞いまで変わってくる。おそらくこれ以上に日本人としてのアイデンティティを強く感じる瞬間はない」と終始ご満悦の様子でした。
Q.さすがマエストロのお父上っ!ちょっと機微がわかってきました。でも、このケースのように確執がある友人は別でしょう!?ほっとけばいいんじゃないすか?
ばっか野郎!!人間生きていれば、大きなケンカのひとつやふたつするのは当たり前だろう。大切なのは、そいつという人間性が、最終的に好きかどうかだ。好きなら、絶対に何かしてやるべきだ。そして相手が窮地に立たされたときこそが、その機会なのである。私の経験談を話そう。
私は28歳でアパレル会社を立ち上げた。そう、この読者と同じように、同年代の親友とだ。その後5年間、会社は順調に成長し、社員が80名を超えるまでになった。しかし、私と彼は経営方針、ものづくりのスタイルなど、さまざまなことで衝突するようになった。我が子のように愛しい社を去るには未練はあったが、私には『もう会社でやることはやった。後は大丈夫だろう』という自負があった。だから私は会社を去った。
退社する日も挨拶しなかったほどだから、よほど仲が悪かったのだろう。その後も私と彼は、業界でも犬猿の仲で有名だった。その会社は、一時は自社ブランドをヒットさせ、テレビでも見かけるほど成長したのだが、だんだん業績が悪化していった。そして私が会社を辞めてちょうど15年経ったころ、巨額の負債を抱えて倒産してしまったのだ。私はその知らせを聞いたとき、久々に彼のことを思った。腹の立つ思い出もあったが、利害関係もない今なら、お互い素のままに話し合えるのではないかと思い、電話をかけてみた。彼は15年ぶりの私の電話に、ただただ驚いていた。私たちは居酒屋で酒を飲んだ。私は説教をし、なだめ、そして力いっぱい励ました。二人の心は完全に学生時代に戻っていたものだ。そして、その後すぐ彼から手紙をもらった。
「赤峰よ、倒産してみんな蜘蛛の子を散らすように去っていった。そんななか、まさかお前から一番先に連絡をもらえるとは思わなかった。びっくりしたが、正直、うれしかったよ。オレもまだ捨てたもんじゃないな」と書かれていた。
逆の場合もある。十数年前、私生活の面で問題を抱え、落ち込んだ時期があった。そのとき、村上というかつての部下が、すぐに電話をくれ、「今晩飲みに行きますか」と誘ってくれた。抱えている悩みを信頼できる人間に話すだけでも、心は軽くなるものだ。終始村上はうんうんと話を聞いてくれ、最後にこう言った。「赤峰さん、人生はまだ長いですよ。それに赤峰さんがどうなろうと、オレは友達ですからね」。その言葉を聞いた時、私は焼酎のグラスにぽとぽと大粒の涙をこぼしてしまった。
この読者も、かつて袂を分かった友人が人間として好きなようだ。ならば、連絡があろうとなかろうと、すぐ電話をかけてやれ。そして酒でも酌み交わせ。もう利害関係もないのだから「お前がどうなろうと、オレはお前の友達だ」と、彼に対する気持ちをぶつけてやればいいのだ。私も経験があるが、社会的に窮地に陥ると、利害関係だけでつながってきた多くの人間は去っていく。そして孤独に苛まれるものなのだ。だからこそ、いの一番に馳せ参じてやる。これが私流の人情の機微である。
−近ごろのマエストロ−
「至福の瞬間は何時?」と聞かれれば、現在の私は「家庭菜園で水やりをしているひととき」と答えるだろう。家の庭に小さな家庭菜園がある。トマトやネギなどを植えているが、今年はズッキーニの収穫に成功した。昇り始めた太陽の下で、できたての実を生のままかじってみる。形こそ不細工だが、味は新鮮なキュウリのようにみずみずしく旨い。ものは試しと花も食ってみる。ほのかな甘みと香りが口いっぱいに広がる。ちっぽけな家庭菜園であっても、陽の光と土壌、水があれば、野菜は力強く成長する。人間も同じである。太陽になってくれた恩師、土壌となった両親、水をくれた友人たち・・・・・少々不器用でもいい。
力強く伸びて、こんな実を実らせることが、ひとつの恩返しになるのだと私は思う。
着物の奥深さと魅力を味わってみよう!
「新しい時代の新しい着物店」がモットーの銀座もとじ。業界初の男の着物専門店をはじめ、紬の着物や染めの専門店、そして作品紹介を主としたギャラリーといったふうに多様なニーズに応える形態で店舗展開を行う。東京・銀座のほか、大阪・梅田阪急内に店を構える。ただ今、着物を粋にこなす達人でもある泉二弘明社長(写真)と同社顧問であり着物の専門化でもある早坂伊織さんによる「男のきもの塾」を開設中。着物を誂えたい方はもちろん、その着こなしについて学びたい方など詳しくは以下へ問い合わせください。
「銀座もとじ 男のきもの」
電話/03-5524-7472
住所/東京都中央区銀座3-8-15
[ www.motoji.co.jp ]
■皆さんからの質問待ってます!
仕事から家庭、恋愛、そしてファッションetc.・・・・・・、日ごろ読者の皆さんが抱える悩み、疑問など、相談したいことを何でも教えてください。マエストロ赤峰がズバッと解決いたします!小誌ホームページ[ www.oceans-ilm.com ]へアクセスのうえ、トップページから投稿してください。
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