2007年11月06日(火)
MEN'S EX 12月号 菊池武夫と赤峰幸生の Be Buffalo Forever! vol.19 [MEN'S EX 掲載記事]
菊池武夫さんと赤峰幸生さん。
ファッション界の2人の巨匠が毎回テーマを決め、それに基づいてお互いのファッションを披露し語り合う、夢の対談連載。
「今月のテーマ」
ツイードジャケットの着こなし方
カシミアと並ぶ秋冬のジャケットの定番素材といえば、ツイードをおいてほかにありません。実際、お2人ともツイードは昔から思い入れがたっぷりおありのようで、いつになくディープかつ、とってもためになる話を聞かせてくださいました。
■(写真右)菊池武夫氏
・ボルサリーノの帽子
・フェイヴァーブルックのドクロ柄プリントのシルクストール
・40カラッツ&525の今シーズンの新作シャツ
・8年前のタケオ キクチ コレクションのツイード製ノーフォークジャケット
・ハーレーダヴィッドソンのショートレザーパンツ
・アディダスの「スーパースター」
■(写真左)赤峰幸生氏
・アカミネロイヤルラインのシャツ
・ダブリュビルのタータンチェックのウールタイ
・シャルベのシルクプリントチーフ
・ロバートソンのカシミアニット
・アカミネロイヤルラインのウォッシュをかけたライトウエイト ツイードジャケット
・アカミネロイヤルラインのサキソーニフラノ製ウールパンツ
・エドワード グリーンの「ドーヴァー」
「'20年代〜'30年代のヨーロッパの少年を手本に、今風にアレンジしました」と菊池さん。一方の赤峰さんは、「クラシックとしての赤の差し色にこだわってみました」とのこと。この日はお2人とも非常にハイブローな着こなしを披露してくださいました。
■活用度の高いツイードJKは冬における男の基本アイテム
M.E. 撮影前、タケ先生はショートパンツを合わせたのがポイントで、赤峰さんは英国紳士をイメージしたっておっしゃっていましたが、それぞれツイードに対して明確なイメージがおありなのでしょうか?
菊池 ええ、あります。ツイードって聞くとやっぱり英国のほうに向いてしまいますよね。さらに言うと、今回は1920年代から'30年代くらいの少年たちの格好を今っぽくアレンジして再現してみたいなって思いまして。本当はツイードのショーツを合わせたかったんですけど、なかったので今日はレザーのショーツを合わせてみました。
赤峰 10代のときに銀座の矢島というテーラーで、ハイランドツイードの、今でいうハリスツイードのことなんですけど、茶のヘリンボーンのジャケットを1着作ったのを、今でもはっきりと覚えています。ツイードは男の服っていうイメージがありますよね。
菊池 僕も10代の後半で初めてオーダーしたのが、ツイードのジャケットでした。
赤峰 そういう意味ではツイードって入門編というか、男の基本アイテムみたいなところがありますよね。最近ではイタリアで織られたホカッとしたツイードも人気が高いですけど、ツイードってスコットランド、いわゆるハイランドの地域のものがベースにあって、自分的にはハイランドのツイードは毎シーズン着ていますし、毎シーズン作っています。冬が来ればハリスツイード、といった感じで、自分の中のマストアイテムになっているんです。
菊池 ビギを立ち上げたばかりのときにスコットランドをテーマにして、ツイードばかりを使ったんです。ただ、出来立てのツイードはあまりにもバリバリなので、しょうがないからすべてのツイードを水通ししてクタクタににたのを覚えています。当時、そんなことをする人は誰もいなかったから、僕が最初だったかもしれません。ツイードって時間の経過とともにアジが出るものですからね。今のハリスツイードは、だいぶライトになって着やすくなりましたよね。
赤峰 もともと3つくらいのウエイトがあるんですけど、今はほとんどがフェザーウエイトという一番軽いものになっています。軽いものだと400gくらいで、重いものだと600g、800gのハリスもあります。800gのハリスのコートを持っていますけど、(注1)オーソン・ウェルズが「第三の男」で着ていたような、体がないと生地に完全に負けてしまうみたいなね、でもこれがリアルなものなのかなってね(笑)。
菊池 よくわかります。
赤峰 シェットランド島、ハリス島は憧れましたね。あとは、アイルランド。ホームスパンにカラーネップがかかっているご存知のドネガルツイードですよね。シェットランドとハリスとドネガルの3つがツイードの御三家だと僕は思っています。本当、憧れました。
菊池 あっちのほうではツイードって正装にも用いられますよね。スコットランドで(注2)キルト巻いているのなんて、まさに正装ですものね。
赤峰 もともとハリスとかスコットランドあたりだとタータンが基本じゃないですか。菊池さんのおっしゃるとおり、スコットランド行くとキルトを巻いてアーガイルジャケット着てバグパイプ持って、ベレーみたいな帽子をかぶって、っていうのが本当のオーソドックスな正装ですよね。
菊池 そういった意味では、ツイードの活用範囲は広いと思います。
赤峰 ハンティングやゴルフなど、クラススポーツにツイードは欠かせない存在で、今日の先生のスタイルはそれをアレンジしたものですよね。
菊池 ノーフォークジャケット着て、切りっぱなしのニッカポッカにバルキーなホーズを合わせて木のクラブを持っていたのが、もともとのゴルフスタイルですから。
■10年、15年着られる服がクローゼットにあってもいい
M.E. いきなりですが、ツイードジャケットをカッコよく着るにはどうしたらいいのでしょうか?
赤峰 菊池さんがおっしゃるように3年から5年着るとアジが出てくるんですよね。だから先生が水洗いしてしまうっていうのも本当によくわかります。くたつかせないと雰囲気がでてこないですからね。
菊池 あとは柄を今風に置き換えてもいいし、色を今っぽくしてみてもいい。ライトウエイトのツイードだったら、そういう選択をしてもカッコいい思います。
赤峰 アングロサクソンの骨太な身体にはオリジナルのハリスツイードが似合いますけど、日本人の骨格にはカシミアを入れたりして風合いの柔らかなツイードも似合うと思います。逆に、ツイードの真っ黒とかも面白い。あるいは、よく見ると明るい糸が入っているんだけどパッと見はダークネイビーっていうのも、なかなかデリケートで新鮮だと思います。
菊池 いいですよね。
M.E. ツイードと相性のいいパンツはあるんですか?
赤峰 ミディアムグレイでクォーターミルドくらいのサキソニーだとか、キャバルリーツイルの細番手のものだったりね。個人的にはそのへんのパンツがオススメです。フランネルになってくると、クリースがきれいに入らないし、膝が抜けやすくなってきてしまいますから。
M.E. なるほど。ツイードと聞いてイメージする人物っていますか?
赤峰 (注3)レックス・ハリスンとか、デヴィッド・ニーヴンあたりですかね。現代風だと、いかにもイギリス風のツイードの着こなしをしているなって思うのは、ダサいけど面白い(注4)ミスター・ビーンです。愚直な応用の利かない真面目なイギリス人で、あれはもうブリティッシュユーモアの典型ですよね。明けても暮れてもヘリンボーンのジャケットしか着ていないっていう(笑)。
菊池 イタリアとは全然違った意味での粋があっていいですよね。あの人は粋です。
赤峰 あと、映画「アンタッチャブル」の中でジョルジオ・アルマーニが衣装を担当していてショーン・コネリーがよれたツイードのジャケットを着ていましたけど、これまたとっても似合っていました。イギリス人だからこそでしょうね。
菊池 前にピカデリーのコーディングスに行ったんですけど、やっぱりイギリス人は今でもツイードジャケットを買っていますからね。お店がちょうど街との境目にあるんですけど、面白いことに街の中に住んでいる人はライトウエイトの生地を買っていって、田舎に住んでいる人はヘビーウエイトのを買っていくんですよね。文化に根差しているんです。
赤峰 なるほどね。やっぱり新しいものばかりを追いかけるのではなくて、10年、15年着られるものがクローゼットの中に2着、3着あってもいいんじゃないかなって思うんです。
菊池 確かに。いいものを作っておいて、自分に似合ったら一生涯着るような服があってもいいですよね。
赤峰 日本でも着物には、おばあちゃんが着ていたものを受け継ぐ文化とかあるんですけど、洋服になるとそれがまるっきりないんです。洋服もそうなってほしいですよね。ハリスツイードっていうのは、耐久性がありますから。
菊池 そこに英国とイタリアの差があるんじゃないですか。テレビや映画の衣装をやっている英国のアンティーク屋さんに行ったことがあって、'30年代、'40年代とか年代別に服が分けられてズラッと並んでいるんですけど、そこに濃紺のツイードジャケットがあって、あれは雰囲気がよかったなぁ。
赤峰 長年置いておくと脂が抜けてきてカサッとするんですよね。そのカサつき感が人工的なものではなくて、本当にいい雰囲気なんです。脂が抜けてくる頃合いがいいアジしているよねってよくいいますけれど、それは生地も人間も同じようなところがあるのかなって思いますね。
(注1) 「オーソン・ウェルズ」
1915年ウィスコンシン州生まれ。俳優、脚本家、監督。代表作は、「市民ケーン」('41年)、「第三の男」('49年)、「黒い罠」('58年)、「審判」('63年)など。'85年没。
(注2) 「キルト巻いて」
スコットランドの伝統的な、腰に巻いて身につけるスカート状の礼装。柄はタータンが一般的。プリーツ状にして作るので、通常8m以上の布地が必要とされています。
(注3) 「レックス・ハリスン」
1908年、英ランカシャー生まれの俳優。映画「マイ・フェア・レディ」('64年)でアカデミー主演男優賞受賞。「クレオパトラ」('63年)ほか、多数の映画に出演。'90年没。
(注4) 「ミスター・ビーン」
ローワン・アトキンソン(1952年、イギリス・ダーラム生まれ)演じるコメディドラマ。ツイードジャケットを着た彼のスタイルは、今やすっかりお馴染みです。
Posted by インコントロ STAFF at 00時00分 コメント ( 1 )