2006年09月06日(水)
MEN'S EX 10月号 菊池武夫と赤峰幸生の Be Buffalo Forever! vol.5 [MEN'S EX 掲載記事]
菊池武夫さんと赤峰幸生さん。
ファッション界の2人の巨匠が毎回テーマをひとつ決め、それに基づいてファッションを披露し語り合う、夢の対談連載。
「今月のテーマ」
レザーのブルゾンを自分流に着る
今回のテーマはレザーのブルゾン。お二人ともご自身のブランドの1着を纏ってご登場いただきました。撮影の舞台は、白金台にあるシニョール赤峰のオフィス「インコントロ」。そこにある膨大な資料に目を通しながら、話は大いに盛り上がりました。
■(写真右)赤峰幸生氏
・リヴェラーノ&リヴェラーノのバスケット織りシャツ
・元町ボビーの'50年代後半製バスケット織りウールタイ
・'60年代のアルパカ製Vネックニット
・8年前に手掛けたY.アカミネのスエードブルゾン
・リヴェラーノ&リヴェラーノのグレイフランネルパンツ
・ジョージ クレバリーの外羽根スエードのセミブローグ
■(写真左)菊池武夫氏
・クールのホンブルグハット
・ルイ・ヴィトンのシルクストール
・40カラッツ&525のハラコジャケット
・タケオ キクチのウールパンツ
・グリップファーストの英国製ブーツ
今回の撮影の舞台となったのは、赤峰さんのオフィス「インコントロ」。
さすがというか、ここは図書館さながらの資料の山。写真集とか昔の貴重な洋書に目を通しながら、「これはカッコいい」、「ああ、懐かしい」といった感じでいつものごとく脱線していきました(笑)。
■着こなしのベースはアメリカでなくてヨーロッパ
ME 今回のテーマはレザーです。なんとなくのイメージで、菊池さんは黒の表革で、赤峰さんは茶のスエードかなって想像しいてたのですが・・・・・・。
赤峰 スエードのブルゾンは、Y.アカミネのコレクションを始めた12年前からブランドの顔としてやっていますからね。昔から1年を通して着ているアイテムで、(注1)ジャン・コクトーが好んで着ていたように、中にドレスシャツを合わせてサラリと羽織るのが、僕の定番の着こなしです。レザーに限っていえば、イタリアのイメージはあまりなくて、思い浮かぶのはフレンチのシックな着こなしなんです。例えば、「太陽がいっぱい」で(注2)モーリス・ロネが素肌に着ていたレザーがカッコいいなって。夏にレザーを着るってことが、当時凄く新鮮に思えたんです。菊池さんがレザーと聞いて最初に思い浮かぶのは何ですか?
菊池 僕の場合、ライダースジャケットですね。バイクに乗っているわけではないんですけど、あのカタチが昔から大好きで、コレクションをやると、いつも発表していたんです。黒の表革の厚いやつ。脱いでもカタチが崩れないようなガチっとしているタイプのね。本当はそっちを着ようかなと思ったんですけど、サイズが小さくなってしまってちょうどいいのがなくて(笑)。
赤峰 ライダースってどっちかっていうと不良系のイメージですよね。当然みんなバイクが好きでしょうから、イギリスだったらトライアンフで、イタリアだったらモトグッチだったりドゥカティになるわけですけど、確かに彼らのスタイルって、もの凄くカッコいいですよね。
菊池 個人的にはブリティッシュの雰囲気が好きなんです。細身の人が猫背で着ているってイメージがある(笑)。とかいいつつも、実はレザーはそんなに着ないんです。ライダースは好きで作ってはいるんだけど、自分ではそんなに着ませんし。
赤峰 それは意外ですね。
菊池 ただ、最近変わった素材を見るとついつい欲しくなってしまうんです。不思議なテクスチャーの感覚に惹かれてしまうっていうか、素材を先に好きになって、デザインは後から考えることが多々あります。最近では、40カラッツ&525でトナカイのスエードを使ってテーラードのジャケットを作ったんですけど、それは気に入って結構着ていました。
赤峰 今日着てらっしゃるのはハラコですよね。それもまた、独特の雰囲気がありますよね。
菊池 インパクトあるでしょう。40カラッツ&525の(注3)秋冬の新作で、今季レザーは2つ手掛けていて、これはそのうちの1つです。今は歳とったからいいんですけど、こういうイカれた感じのを自分で着るようになったのって最近になってからなんです。これは素材が気に入ってるんですけど、モード系になりすぎてしまうと落ち着かないっていうか。着るとなると別の話だったんですよね。やっぱり自分で着るのは、しなやかなほうが好きでして(笑)。
赤峰さんが着用しているのは、ダンヒルの'40年代製レザーコート。
菊池さんが手にしているのは、ハーレーのレザーのショートパンツ。
お互いの品を見ながら盛り上がっていました。
■着てカラダに馴染んでこそ自分のものになっていく
赤峰 菊池さん、これ見てください。ダンヒルの昔のレーシングカー用のレザーコートです。
菊池 ダンヒルですか、今は(注4)ニック・アシュレイが手掛けていますよね。それにしてもこの服は凄いなぁ。いつ頃のやつですか?
赤峰 1940年代くらいのものです。当時の紳士はこれを着てゴーグルをして、レースに出てたりしていたわけです。風に負けないヘビーな革を使っていて、肩の狭さといいウエストの絞りの感じといい、この時代の洋服って感じです。袖が前に振ってあるから腕を前に出しているとラクなんですけどね。こういうマインドのコート、個人的には大好きです。
菊池 ヴィンテージの使い込んだ味がいいですね。
赤峰 革製品って着込まないと、自分に馴染んでこないですよね。馴染んでるのがカッコよくて、新しいうちはしっくりこないんです。ずっと着ていると、これは着ている本人だけの感覚なんですけど、このへんで自分の感じになってきたなっていうのが感覚的に分かるんですよね。
菊池 本当、そのとおりです。革に関しては、日常的に着ているものでないと落ち着きません。今日僕が着ているのは秋冬の新作ですから、自分の中ではまだ正直違和感があります。そう考えると、赤峰さんのは着込んであるし、板についていますね。
赤峰 このへんのバリエーションは作り尽くしましたから(笑)。1年中しまわずに、夏でも半袖の上にも着ています。クルマの中に置きっぱなしにして着られるし、レザージャケットということで、ある程度オフィシャルなところでも通せてしまう利便性もありますし、もうずっと愛用しています。
菊池 僕は逆に冬しか着ないんです。赤峰さんが着てらっしゃるようなのは持っていなくて、覚えているところでは黒の表革のテーラードジャケットを、'80年代になりますけどずっと着ていました。あと愛用していたのは、今日持ってきたんですけど、ハーレー・ダヴィッドソンの革のショートパンツです。
赤峰 ほーっ、これは珍しいですね。夏ものですか?
菊池 だと思いますよ。夏にハーレー乗るときに穿くんでしょうね。危ないですけどね(笑)。一時期凄く気に入っていて、冬にヘビーローテーションで穿いていました。
赤峰 そのへんのひねった着こなしは菊池さんらしいですね。僕も、革ものに綿素材っていう正攻法すぎる合わせはあまり好きではないですね。上がレザーのときはウールパンツとかのほうが気分です。
菊池 いいたいこと、よく分かります。アメリカの(注5)ボンバーとか着てチノパンとか穿いている人、いるじゃないですか。色は合ってるんだけど、いくらなんでもあれはないですよね。
赤峰 絵に描いたようにはまりすぎていて、はずしの美学がないんです。
菊池 そういうことです。あと、話は変わりますけど、僕は革ものに関してはクリーニングしないって決めているんです。どんなに周囲にクリーニングに出せっていわれても、それだけは昔から絶対にしないんです(笑)。
赤峰 僕も革に関しては絶対ケアしません。ケアしないのがケアっていうのかな(笑)。さすがに度が過ぎてはいけませんけど、革の場合、適度なヨゴレもアジになるんですよね。
菊池 まさにそのとおりです。そのほうが自分らしく着こなせますしね。ヨゴレというか、レザーの場合、クタッとした風合いを自分のものとして楽しむべきものなんですよね。
(注1) 「ジャン・コクトー」
1889年〜1963年。詩、小説、映画、デッサンなど、さまざまなジャンルで活躍したフランスの前衛芸術家。シャツ&タイにレザーブルゾンの着こなしが、彼の定番。
(注2) 「モーリス・ロネ」
1927年〜1983年。仏生まれの映画俳優。'60年には「太陽がいっぱい」でアラン・ドロンと共演。金持ちの放蕩息子を演じつつ、華麗なレザーの着こなしを披露。
(注3) 「秋冬の新作」
菊池さんが着用している40カラッツ&525のラグジュアリーなハラコジャケットは、9月中旬からの展開予定。63万円(40カラッツ&525 電話03-3408-8562)
(注4) 「ニック・アシュレイ」
ダンヒルのカジュアル部門のクリエイティブ・ディレクター。かなりのバイク好きとしても有名で、ダンヒルのモートリティーズ・コレクションにしっかり反映しています。
(注5) 「ボンバー」
ボマー・ジャケットのこと。第2次世界大戦時などにアメリカ空軍が着ていた表革のフライトジャケットで、ボアのついた襟が特徴。有名なところでは、G-1など。
Posted by インコントロ STAFF at 00時00分 コメント ( 0 )