2006年06月24日(土)
OCEANS 8月号 連載#5 [OCEANS掲載記事]
King of Elegance
マエストロ赤峰の
「粋がわかれば、すべてがわかる」
夏のコットン“ジワ”の「粋」
服は素材が命である。その理由は2つあり、ひとつは季節感、もうひとつはエイジングだ。今回は私と(注1)服作りの志を共にする中村女史を招き、素材を題材として「粋」について語らうことにした。
中村 赤峰さんの夏服の代名詞は、出会った(注2)二十数年前から変わらず、コットンスーツですね。
赤峰 夏は氷屋、冬は炭屋と言うが、素材にも同じことが当てはまり、夏はコットンやリネン、冬ならウールやカシミヤとなる。素材は季節感をダイレクトに表現する。そして季節感をを自然と取り入れることが粋である。流行がいかに移り変わろうとも、私が夏に(注3)コットンスーツを愛用する理由だ。
中村 日本人は夏に浴衣を着ます。夏のコットンスーツは、浴衣に通じる風物詩ですからね。ベージュのコットン地は夏の日差しに映え、溶け込みます。それがナチュラルに見えます。
赤峰 その“ナチュラル”という見え方が、とても大切だ。だから、コットンスーツでもまっさら、下ろしたてなのは気恥ずかしい。着ていれば自然とシワが入るもので、そのシワが粋なのだ。最近ではシワが入らないことを謳い文句とした化学繊維を混紡した品もあるが、私個人としては、それはコットンスーツの持ち味を消し去っていると思う。それに加工によって味出しをした品というのも、私からすれば無粋である。自分で着込んで、さまざまな思い出を吸い込み、コットンスーツが自然と味わい深くなる。それがいい。では、購入したてのコットンスーツはどうするか?自宅で多少の(注4)慣らし運転をしてから、着ることとなる。
中村 私は長く付き合えるような服作りを基本スタンスとしています。着れば着るほどに魅力が増す服が素敵だと思うのです。
赤峰 まったくその通り。コットンスーツの袖口がすり切れたり、色褪せたりするのは言うなればダシであり、それがそのものの味わいを深める。つまり、それが粋に通じるのだ。
(注1) 「服作りの志」
デザインありきではなく、素材ありきで服を作る。また服が主張しすぎず、着る人を引き立てることに重きがあり、T.P.Oとライフスタイルを念頭に置く。
(注2) 「二十数年前から変わらず」
赤峰氏にとっては褒め言葉。流行に左右されず、自分のスタイルを確立していることの証明として。
(注3) 「コットンスーツ」
取材時に赤峰氏が着ていたのは、フィレンツェのリベラーノ&リベラーノにて仕立てたコットンスーツ。イギリスのカーリントン製のコットンギャバジンを使用。
(注4) 「慣らし運転」
新品をそのまま着ないのが赤峰氏流。ある程度馴染んできた頃合を見計らってから着用する。今回のコットンスーツは一度洗ってから着始めたそう。
左が中村三加子さん。赤峰氏とはかつて同じ会社でともにデザイナーを務めていた間柄。現在は株式会社オールウェイズを立ち上げ、婦人ブランドの開発に携わっている。
2004年には自作ブランド「Mikako Nakamura」を発表した。
ユナイテッドアローズ本店にて扱われるほか、東京・目白にサロン、ニューヨークにショールームを開設している。
清涼感を引き立てる、夏のブラックタイ
写真上はマイケル・ダグラスの父親で、同じく俳優のカーク・ダグラス、下はご存じクラーク・ゲーブルだ。夏に黒タイとは意外であるが、奇をてらったテクニックではない。ウェルドレッサーの例を見てわかるように、Vゾーンを端正に見せ、逆に涼しげな印象を与える。
赤峰氏もベージュのコットンスーツに黒タイを合わせ、実践している。
赤峰氏の夏の定番アイテム、普遍的な魅力を持つコットンスーツ
写真左は赤峰氏。ベージュの3ボタン段返りのコットンスーツを軸に、Vゾーンは白のレギュラーカラーシャツと芯のないシルク製の黒タイで構成し、胸ポケットに白のリネン製チーフを挿している。ベーシックでありながら、今日的な感覚の着こなし。「ポケットに手をつっこんだときにできる腕のシワ、フロントのボタンホールの辺りにできるシワ。そんな自然な着ジワがコットンスーツならではの粋である」と語る。
10年前にリベラーノ&リベラーノにて仕立てた一着。取材時に着ていたコットンスーツと仕立て先も生地も同じ。着用感により味の具合が異なり、それを楽しみながら、ケースバイケースで着分けているそうだ。
Posted by インコントロ STAFF at 00時00分 コメント ( 0 )