2008年02月24日(日)
OCEANS 4月号連載 AKAMINE STYLE 目覚めよ、日本の男たち! [OCEANS掲載記事]
マエストロ赤峰の「オトナ相談室」
仕事、家庭、子育て、そして愛……などなど。
30〜40代のオーシャンズ世代にもなれば、少なからず何かしら悩みのタネは持っているもの。
そんな皆さまの“駆け込み寺”として開設されたのが、このオトナ相談室。皆さんの質問にお答えするのは、“人生のマエストロ”こと赤峰幸生氏。今月も痛快なご意見で迷えるオーシャンズ読者に救いの手を差し伸べてくれるハズ!
では皆さん、ご一緒に!教えてっ、マエストロ!
今月のお悩みキーワード
“今どきアメリカン”
[今月のお悩み]
クラシックな着こなしが好きですが、ほどよく流行も取り入れたいと思っています。ファッション誌に目を通すと、今シーズンはトレンドとして「アメリカ」というキーワードがよく挙げられています。しかし、アメリカ的な着こなしとはどのようなものなのかイマイチわかりません。そこで、マエストロに教えてほしいのです。アメリカ的、とはどのような着こなしなのでしょうか? (36歳・大阪府北区在住・コンサルティング会社勤務Y・Kさん)
Q.今年はとにかく「アメリカ」が大ブーム!これって、アメリカ大統領選の影響もあるのでしょうか?
馬鹿やろう!いつも思うがおまえはなんて安直なのだ。アメリカ大統領選とアメリカ的着こなしが注目されていることに因果関係などない! ファッションにはサイクルがある。端的に言えば、ここ数年イタリアがもてはやされてきた反動として、今アメリカに目が向いているということだ。ラルフ・ローレン以降、ようやく(注1)トム・ブラウンというアメリカンファッションのアイコンとなる人物が現れ、アメリカ随一の老舗ブルックス ブラザーズとのコラボレーションが功を奏していることも大きな要因に挙げられる。しかし、流行なんてものは錯覚のようなもので、アメリカ的なるものが新しいということもまやかしにすぎない。とはいえ、そういったある種のイメージに影響を受けることがファッションの魅力でもあり本質でもあることもまた事実である。これまでに幾度と語っているように流行に惑わされて自分を失うことは愚かしいが、自分なりに流行を消化して適度に取り入れるならば、それはファッションに対して積極的にアプローチしていることになる。だから、クラシック志向だからといっても、それは決して流行の移り変わりと無縁であっていいという意味ではない。ちなみに大統領候補であるオバマの着こなしはアメリカントラッドそのものだ。ジョン・F・ケネディを彷彿とさせ、誰しもが好感を得る。清潔感に溢れた、限りなくクリーンなイメージ。そこに「アメリカ」的着こなしの神髄がある。そして、その着こなしとわが国の関係は、驚くほど昔から始まっているのだ。もっと言えば、それは我々にとってとてもなじみのある存在であったと言っても過言ではない。
Q.なるほど。では「アメリカ」的な着こなしは、僕らととっても関わりが深いんですね。でも、それはいったいどういう意味でしょう?
お前、だんだんスムーズな司会進行が板に付いてきたな。日本がファッションに関して、初めてアメリカと接したのは、終戦後にダグラス・マッカサーの姿を見た瞬間からであろう。軍服から白いTシャツを覗かせ、レイバンのサングラスを掛けている様は日本のファッション文化に大きな衝撃を与えた。その後、アメリカ統治下の日本において、ヘインズのTシャツであったり、バスのローファーなど、ヤミ市のアメ横などで流通したアメリカが持ち込んだものは、豊かさの象徴となり、憧れそのものになった。そして当時、テレビから流れるハリウッド映画が多大な影響を与えた。昭和の日本の洋装とはすなわち、アメリカのファッションのことを指し、その影響にどっぷりと浸かったわけだ。そのうちに日本ではアメリカのスクールスタイルを模した(注2)VANが生まれ、読者の皆さんもご存知であろうアイビーブームが巻き起こった。豊かさの象徴であったアメリカ文化を、日本人は何の抵抗もなく受け取ったのだ。確かに今日まで続く、豊かな生活はアメリカの恩恵によるところが少なくない。だが、それらのすべてが評価できるものではないことを知っておかねばならない。アメリカがもたらした簡単で便利=コンビニエントなものは、日本の生活をスピーディなものに変えた。しかしながらそれは、一切の無駄を省く代わりにかつてそこにあった生活の「ゆとり」をも奪っていったのだ。洋服のことについても同じことが言える。アメリカの「カジュアル」という言葉は、ルールのない自由な着こなしという愚かな解釈をもたらし、T.P.O.という概念などそっちのけにして、日本人は手軽で便利なものだけを生活に取り入れていった。しかし、アメリカ的な着こなしの本質はそんなところにはないのだ。その美しさは、先ほども言ったように、清潔感溢れるイメージにあり、「着やすさ」という名の便利さを追求したようなものなどにはない。現在もアメリカ的な着こなしが注目されているが、その実態はアイビーだの、プレッピーだの、’70年代のブームの表層を焼き直そうとしているだけ。つまり、誤訳されたままのアメリカなのだ。これはアメリカが日本同様に服飾文化の歴史が非常に浅いということ、もっと言えばその中でのアメリカの立ち位置をしっかりと知らねばならないことを意味している。つまり服飾の基礎はすべて英国にあるが、アメリカは歴史ある英国には到底、敵わないと承知している。そうした中で、独自のスタイルを確立していったのだ。スーツではナチュラルショルダーやボックスシルエットなどで、心地よい着心地を求めた。アメリカには着こなしに関するハウトゥー本が数多いが、それは歴史を持たないがゆえ。英国にはそんなものはない。王室こそがファッションリーダーであり、また人々の着こなしは父から子へと代々継承されているからである。
(→)こちらはマエストロが、お忍びで訪れるというジャズ喫茶の「映画館」(TEL.03-3811-8932 東京都文京区白山5-33-19)。懐かしのジャズを聴きながらお酒やお茶を楽しめることで、ツウなジャズファンに人気のスポット。仕事の疲れを癒しながら、ビルエバンスの名曲を聴くマエストロ。
Q.そうですか。やっぱりマエストロは「アメリカ」のこと嫌いなんですね。僕も何だか嫌いになってきました!
てめぇ、ふざけるな!オレの話を聞いてやがらなかったのか!この馬鹿やろうが!私が言いたいのは、アメリカのよきところと悪しきところを理解しろということだ。何でもかんでも影響されやすい、日本人特有の、その愚かな体質を改善しろということだ。とはいえ、私もハリウッド映画や連続ドラマから素晴らしい影響を受けた。ケーリー・グラントやハンフリー・ボガードなど、彼らの着こなしは私のよき手本である。かつて(注3)ノーマン・ロックウェルが描いたニューイングランドスタイルにはアメリカの豊かなライフスタイルが現れ、その清々しい着こなしは今の時代においてもよき手本となろう。しかし、その一方で、何でもカジュアル化してしまうアメリカとは一線を画すべきだ。合理性や効率化を求めて、開発した化学繊維を衣服に応用し、例えばシワにならない平面的な服などに価値は見いだせない。スポーツウェアやワークウェアはそれで構わないが、クラシックウェアではそうはいかないだろう。トレンドとして、アメリカが注目されている今、我々が取り入れるべきは、英国流儀をアメリカ的に解釈した折り目正しい着こなし方なのだ。
Q.なるほど!では、今シーズンは全身、アメリカブランドで揃えれば万事解決するということですね!
馬鹿に付ける薬はないものか。この安直やろうが!そんなことまで説明しなければ、理解できないのか! ワードローブを総取っ替えして、全身をアメリカブランドにするなど愚の骨頂だ。あくまで、英国流儀をベースとしながら着やすくしたアメリカ、ドレスダウンしながらも品のよさを失わない服をキチンと着こなすアメリカ、それを自分なりに取り入ればいい。つまり、そんなアメリカの服飾文化を、だ。ボタンダウンシャツやレジメンタルのタイを身に着けたからといって、それでアメリカだ、それが今季のトレンドだ、などと思い込んでいるなら、今すぐ顔を洗って出直してこい。まさに流行に踊らされる。アメリカブランドが悪いわけではもちろんない。しかし、重要なのはブランドなどではない。
Q.ようやくわかりました! 我々に必要なのはアメリカ的な着こなしを自分なりに咀嚼することですね。
そのとおりだこのやろう!アメリカの服飾文化は我々日本人になじみがあり、服に関して歴史が浅いことでも共通点がある。他国で育まれた文化をどのようにレシーブするかが肝要だ。私は「和魂洋装」という言葉で、それを捉える。つまり、「和の魂」で「洋を装う」のである。アメリカの真似をしたって何になろう。日本人の独自の着こなしを求めねば。流行だからといって、アメリカ的になりすぎるのもよくない。アメリカ的なビタミン、イギリス的なビタミン、イタリア的なビタミン、さまざまな国の服に通じるカルチャービタミンをバランスよく摂ることが大事だ。その上で日本化する。私が日本人としてスーツを作っているのも、まさしくそれがコンセプト。リアル・ジャパニーズ・スタンダードを模索しているのである。アメリカンスタイルの日本製のスーツに、イタリア製のボタンダウンシャツを合わせたっていい。アメリカの流儀を自分流に捉え直すことを怠ってはならない。
(注1) 「トム・ブラウン」
1965年生まれ。2001年に自身の名を冠したブランドをスタート。2004年秋冬のニューヨークコレクションに参加。2006年にはCFDAメンズ・デザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞。2007年秋冬にブルックス ブラザーズとのコラボレーション、ブラック フリースを発表。2008年2月から梅田阪急百貨店メンズ館にて初ショップを展開中。
(注2) 「VAN」
石津謙介氏が1951年にスタートしたブランド。1960年代にアイビールックとして一世を風靡。
(注3) 「ノーマン・ロックウェル」
1894年、ニューヨーク生まれ。アメリカの市民生活を描き、最もアメリカ的な画家と言われる。
−近ごろのマエストロ−
大阪の阪急百貨店メンズ館を訪れたマエストロは、コム デ ギャルソン ジュンヤ ワタナベ マンがセントジェームスとコラボレートしているシャツジャケットを購入。「クラシックが根底にあり、クリエイティブの意図に共鳴できるブランドだ。それをモードと捉えるかどうかは、購入した人次第であろう。阪急百貨店メンズ館はモノと器は立派に揃った。課題は販売員の接客力だ。百貨店であっても、あくまで個人商店。それを忘れけなければ、おのずと結果はついてくるだろう」。
■みなさんからの質問待ってます!
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Posted by インコントロ STAFF at 00時00分 コメント ( 0 )