2006年11月24日(金)
OCEANS 1月号 連載#10 [OCEANS掲載記事]
King of Elegance
マエストロ赤峰の「粋がわかれば、すべてがわかる」
着こなしの基本はモノトーンでのハーモニー
千鳥格子のスリーピーススーツに合わせているシャツは白のツイルで、チーフは白のリネン。タイは黒もしくはシルバー系を合わせるのがスタンダードだが、それでは凡庸なので、赤峰さんは応用編として赤×黒のストライプタイを選択。靴は35年程前、ニューヨークで購入したフローシャイムの黒の内羽根ウィングチップ。カントリーテイストが持ち味である千鳥格子とウィングチップの相性は抜群。この着こなしにコートを羽織るのであれば、上襟がベルベットになっている黒のチェスターフィールドが第一候補になる。
ベストがあれば、ジャケットを脱いだ姿も粋でサマになる
後ろの尾錠はきつめに締めて、コルセットのように着るのが王道。背筋が伸びて、身も心も引き締まる心地。シャツの袖はまくった方がこなれて見える。
スリーピースの「粋」
年末年始に向けて、ドレスアップの機会が増えてくる。そこで今月はフォーマルな着こなしについて話をしようと思う。どんな着こなしでもT.P.O.を念頭に置くことは不可欠だが、フォーマルシーンではその意味合いがより濃くなる。もし、パーティーの招待状に(注1)ブラックタイ着用とのドレスコードが記されていたならば、すなわちタキシード着用を意味する。しかし、そのようにドレスコードが明確ではない場合には、ブラックスーツを選ぶことが一般的だろう。しかし、私はブラックスーツを好まない。日本では冠婚葬祭用との印象が強く、また没個性となりがちだからだ。ただし、これ見よがしに個性を主張することを勧めるつもりは毛頭ない。あくまで控えめに、場の雰囲気に自然に溶け込み、それでいてさり気なく個を醸し出せるような着こなしが望ましい。そういった目線でタキシードに続くセミフォーマルスタイルとなるのが、(注2)千鳥格子のスリーピーススーツである。着用しているのはフィレンツェのリベラーノ リベラーノのビスポーク。生地は英国の(注3)ウィリアム ハルステッドのクリアフィニッシュによる(注4)梳毛ウール。モノトーンで、細かな千鳥格子のため、派手にはならずにドレッシー。そしてスリーピーススーツは、やはり、ベストの存在感が大きい。タキシードでのカマーバンドに通じる役割を果たす。背中の尾錠はきつめに締め、コルセットのようなタイトなフィット感で着れば、背筋も自然と伸び、姿勢もよくなる。そしてベストはジャケットを脱いだときにも功を奏する。シャツは肌着の位置づけ。そのため、ジャケットを脱いでシャツ一枚となるのは、フォーマルシーンでは礼に反する。しかし、ベストがあればそのようなことはなく、シャツの袖をまくってもサマになり、粋であると思うのだ。
近頃はタキシードジャケットにデニムを合わせたようなフォーマルスタイルのドレスダウンがトレンドとなっているが、私にはどうにも軽薄に映る。やはり、大人の男はあくまでも筋を通した王道の着こなしが望ましい。それはフォーマルシーンであればなおさらのこと。千鳥格子のスリーピーススーツには貫禄が備わり、パーティで優雅に立ち振る舞うための好材料となる。
(注1) 「ブラックタイ」
黒のボウタイのことを指す。ゆえに、ボウタイを合わせるタキシード着用を意味する。ただのブラックタイを合わせて、常識が疑われることのないように。
(注2) 「千鳥格子」
チェックの一種であるハウンドトゥースの日本での呼称。ハウンドは猟犬、トゥースは歯の意。グレンチェックと並んで、カントリー的なテイストを持った英国的トラディショナルパターン。
(注3) 「ウィリアム ハルステッド」
英国を代表するファブリックメーカーのひとつ。
(注4) 「梳毛」
毛羽立ちの少ない、しなやかなウールのこと。対極となるのは紡毛。千鳥格子でも梳毛であればドレッシー。だが紡毛になればカントリー色が強くなり、フォーマルな印象は弱まる。
グレースケリーと共演した映画「上流社会」の一幕より。千鳥格子を着こなすフランク・シナトラが、粋とは何かを教えてくれるお手本的映画。赤峰氏は映画から多々、着こなしの着想を得るという。
1935年に撮影されたゲーリー・クーパーのポートレート。千鳥格子のピークドラペルのジャケットを粋に着こなしている。
カラーバーを使ったタイドアップも洒脱。
目標となる着こなし例のひとつ。
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今月の赤峰ワードローブ [OCEANS掲載記事]
ホーランド&ホーランドのハンティングジャケット
ロンドンにあるハンティングを中心にクラススポーツ用のアイテムを扱う名店が、ホーランド&ホーランド。日本での取り扱いはなく、赤峰氏は現地にて7年ほど前に購入。この一枚仕立てのコットン製ブラウンジャケットはハンティング用の機能ウェア。ルーツのあるアイテムをスポーティに着こなすのが赤峰氏流。これから着込んでいくことで、味わいが深くなり、より魅力を増すことが楽しみに。
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OCEANS1月号記事「お洒落の達人に聞いた!パパの10年コンサバって!?」 [OCEANS掲載記事]
オーシャンズがお洒落なパパに持ってもらいたいと思うのは、長く愛せて使える「10年コンサバ」なアイテム。ここでは、お洒落の達人たちに、長い間愛用しているアイテムについて教えてもらいました。
「アキュアスキュータム」の'40年代ビンテージコート
本誌連載でもおなじみのマエストロ赤峰氏。で、そんな氏がワードロープからピックアップしてきたのは、'40年代のアキュアスキュータムのコート。キャメルカラーに肉厚なウールの上質な素材感が際立つ、品格漂う逸品だ。
「なんといってもこれは素材感が素晴らしいですね。それにターンナップの袖やボタンの大きさなんかもちょうどいい。最近では服を痛めつけるような加工ものが流行していますが、僕はこんな“リアルヴィンテージ”なものに粋やエレガンスを感じることが多いです。」時代を超えて、なお着続けられる。これぞまさに、本物だけが持つ魅力だ。
「洋服は、その歴史の繰り返しの中で生まれ育つ。着る人にとって、時代性や歴史性を受け継いでいくことは重要です。また、好き勝手に着るだけではなく、そのルーツ、例えば洋服のディテールに敬意を払いながら着ることを、もっと重んじてもいいのではないか。“故きを温ねて新しきを知る”。僕が服を着るうえで、大切にしている考え方です。」
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2006年10月24日(火)
OCEANS 12月号 連載#9 [OCEANS掲載記事]
King of Elegance
マエストロ赤峰の
「粋がわかれば、すべてがわかる」
これ見よがしにならないマエストロ流のこなし方
ラグランスリーブでダブルブレスト6ボタンのレザーコートは、1940年代のダンヒル製でロンドン大学の教授から譲り受けたもの。フィレンツェのリベラーノリベラーノにて仕立てたドーメル社製のガンクラブチェックの生地を使用したスーツに、チャーチのハンティング用ブーツを合わせた着こなしで。取材時は白シャツにホーランド ホーランドの鳥のクレスト柄のタイを合わせて。よりスポーティにこなすならタートルネックのニットを合わせるのがおすすめ。
レザーコートの「粋」
前号ではカシミアのアルスターコートを題材にして粋について話したが、同じコートでも素材がレザーとなると趣はまったく異なる。今回は(注1)ダンヒルのレザーコートを取り上げる。1940年代のドライビング用コートで、親交のあるロンドン大学の教授から譲り受けたものだ。私は服との一期一会を大切にしており、このコートはまさにそのひとつ。偶然に出会い、運よく手に入り、以来、冬が訪れる度に愛用している。説明は割愛するが、移動手段が馬から車に替わり始めた頃に創業したブランドがダンヒル。乗馬、狩猟などのクラススポーツのひとつとしてドライビングが加わり、粋な装いが生まれた。このコートを粋に感じるのは、そうした背景からである。防寒性が高く、前振りの袖で、機能性も申し分ない。(注2)ベルスタッフのライダーズジャケットも然りである。
レザーはウールやカシミア素材と比べて、まったく性質が異なる。経年変化、味の深まり方が違うのだ。レザーは着込まないと、その魅力を発揮しない。しかし、いったんなじみ始めると、自分の皮膚のような感覚でまるで体の一部のようになっていく。キズが付いても、またそれが味わいに。着るほどにいい風合いになる条件は、上質なレザーであること。今でもダンヒルが素晴らしいのは、質のよいものをずっと作り続けていることにある。それは歴史に裏打ちされている。一朝一夕になし得ない品格が、そこには存在する。他には(注3)コノリーも挙げられる。
レザーのコートを粋に着こなすために、気をつけていることがひとつある。それは、「リッチ」に見えないようにすること。レザーはおおむね、高価である。だからこそ、リッチ風に着飾るのは、これ見よがしそのもの。リッチとクラス感はまったく違う。着込んで味わいが深くなったレザーであれば、それを着ている本人と自然な調和が生まれる。だからこれ見よがしなリッチにはならないのだ。これからレザーの新しいアイテムを手に入れるなら、着て外出する前に、できるだけ自宅で試し着を繰り返して、体になじませていただきたい。いかにも下ろし立てに見えるのでは、まるで借り物を着ているようだ。ダンヒルのレザーコートも、今よりは来年、そして10年後のほうが、さらに粋になっていると思うのである。
(注1) 「ダンヒル」
創業者であるアルフレッド・ダンヒルは、1880年代に馬具専門卸業を営む父の家業を引き継いだが、自動車のアクセサリーや小物販売に転身。今日では車を中心としたライフスタイルを提案するラグジュアリーブランドとして発展。
(注2) 「ベルスタッフ」
1924年、イギリスにて創業。本格ライダーズジャケットを扱う老舗。完全防水と通気性の両方を兼ね備えた「ワックスコットン」を世界で最初に使用し、イタリアや日本で大ブレイク。
(注3) 「コノリー」
創業1874年の英国王室御用達のタンナー。ロールス・ロイス、ベントレー、など高級車の内装用皮革として名高く、コノリーレザーと呼ばれ、レザー小物まで展開。
ダンヒルの歴史を語る資料として貴重な「ONE HUNDRED YEARS AND MORE」。
車を中心としたライフスタイル、それにまつわるアイテムを提案した広告などが収められている。
1900〜1970年のカーレースの模様を掲載している写真集。
クラシカルなレーシングカーとともに、当時の粋なドライビングスタイルを紹介。
現代に通じるよきお手本集。
赤峰氏の所蔵本より。
粋な男の一人として、赤峰氏が挙げるのは名優クラーク・ゲーブル。エポーレット付きのレザーコートにタートルネックを合わせ、パイプでタバコをくゆらせる。この姿が実に洒脱。
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今月の赤峰ワードローブ [OCEANS掲載記事]
Y.アカミネのカバーコート
乗馬用のコートをイメージして、街着用としてデザインしたコート。Y.アカミネにて4年ほど前に製作。素材はウェイトの軽いキャバリーツイル。上襟はベルベット素材。軽快に歩きたいから、着丈を短めに。ドライビングコート同様、クラススポーツ感が漂う一着。赤峰氏はジャケット代わりとして、カシミアニットに5ポケットパンツ、足元はジョッパーブーツで合わせるのがお気に入り。
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2006年09月24日(日)
OCEANS 11月号 連載#8 [OCEANS掲載記事]
King of Elegance
マエストロ赤峰の
「粋がわかれば、すべてがわかる」
マエストロ赤峰さんのアルスターコートのこなし方
フィレンツェのリベラーノ&リベラーノで10年ほど前に仕立てたアルスターコートは、スコットランド・コロンビー社製のカシミアを使用。ツイードジャケット、ラウンドカラーのシャツ、ブラウンウールのタイ、グレーフレンネルのパンツ、ブラウンスウェードのシューズを合わせ、粋なこなしを実践している。
アルスターコートの「粋」
秋冬の粋を語るには、コートを取り上げないわけにはいかないだろう。まずモデルではトレンチコートや(注1)バルカラーコート、そして(注2)ダッフルコート、Pコートについて。私はこれらの普遍的なモデルを好む。ただしかし、もともと、ミリタリーや作業着として生まれ、後にファッションに転じたコートであるために、いささかドレスマインドに欠ける。もちろん、それが持ち味なのだから、粋にこなせるかどうかはTPO次第となる。(注3)チェスターフィールドコートもいい。これは昼夜兼用の正装用コートであるから、ドレスアップしたフォーマルシーンにふさわしい。私が好むコートのひとつである。けれども、日常のシーンで着るにはドレッシーすぎて、応用度に欠けるところがある。
少々、前口上が長くなったが、こうしてコートを俯瞰し、もしも1着だけコートを選ぶとするならば、私の場合、アルスターコートに辿り着く。この名はあまり聞き慣れないかもしれないが、いわゆるオーバーコートの典型。ラペル幅が広く、ハイウエストで丈は膝下程度、腰ベルトもしくは背バンド付きで、ダブルブレストの6つもしくは8つボタン、そして折り返しのある袖口が特徴に挙げられる。セミフォーマルのポジショニングであり、“ドレス・スポルティーボ”といった感覚でこなすのが好きである。ドレスに振っても、スポーティに振っても、立ち姿が実にエレガント。つまり、魅力は着こなしの幅が広いことだ。カラーは(注4)キャメルがいい。ネイビーやグレーよりも上品にこなせて、アルスターコートの持ち味が引き出される。素材はヘビーウェイトのウールが一般的ではあるが、(注5)カシミアであれば、より品のよさが際立つ。
アルスターコートは、日本でも昭和初期に紳士が好んで着ていた。外套(がいとう)という呼び方がしっくりとくる。私は西洋の服飾を何でも賞賛し、彼らの真似をしようとは思わない。ただし、歴史的背景は大切にしたいと思っている。服飾の歴史が浅い我々日本人は、基本を知って、それから応用するべきだと思っている。あの(注6)白洲次郎が、サヴィルロウで仕立てたスーツを着ても、日本人のマインドを表していたように。アルスターコートの粋なこなし方も、然りだ。
(注1) 「バルカラーコート」
着脱が楽な、ラグランスリープ(襟ぐりから袖下にかけて斜めの切り替え線の入った袖)が特徴。日本では、ステンカラーコートとも呼ばれている。
(注2) 「ダッフルコート」
別名、モンゴメリーコート。モンゴメリーという英国軍人の名に由来。イタリアでもモンゴメリーといえば、ダッフルのことを指す。
(注3) 「チェスターフィールドコート」
本来は黒か濃紺で、上襟のベルベットが特徴だが、最近では襟付きの比翼仕立てのコート全般の呼称として使用されている。
(注4) 「キャメル」
ここでは色のこと。キャメルヘアと言えばラクダ毛のこと。とても上等でキャメルヘアのコートはエレガントの極みとされる。
(注5) 「カシミア」
赤峰氏のアルスターコートは、キャメルカラーのカシミア製。162ページからのデニムにカシミアを合わせる特集もご参考に。
(注5) 「白洲次郎」
ご存知、日本における粋を極めようとした第一人者。英国のスーツの聖地、サヴィルロウでスーツを仕立てていたことは、つとに有名な逸話である。
コートの羽織り方にも粋な作法があるんです
右上■その1.コートのポケットではなく、ボタンを留めずにパンツのポケットに直接手を入れる。
左上■その2.袖を通さずに、肩掛けにする。
右下■その3.片方の肩だけに引っ掛けるetc.
あくまで、さりげなく。これらに共通するのは、「自然な立ち居振る舞いに見える」ことで、これ見よがしなのはいけない。胸ポケットにチーフを挿すのは○でも、グローブを入れるのは×、との弁も頂戴いたしました。
赤峰氏所有の「MAN'S FASHION」誌から。
イラストのアルスターコートは、アルスターのデザインが生まれた当時にほぼ忠実。そして、それがほぼ変わらず、今に受け継がれていることがわかります。
このスクラップブックは、赤峰氏が高校生の頃にアイテム別にさまざまな粋な着こなしを切り抜いて集めていたもの(驚き!!)。その中から、アルスターコートを着ているクラーク・ゲーブルを発見。まさに粋な立ち居振る舞い。
アルスターコートは、別名でブリティッシュ・ウォーマー、またはポロ・コートとも呼ばれます。
そして、こちらは1970年、ブリオーニ的、つまり、イタリア的に解釈されたもの。
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今月の赤峰ワードローブ [OCEANS掲載記事]
ヴィンテージのC.P.O.アウターシャツ
蔵出しアイテムとして紹介するのは、'60年代のアメリカ軍のC.P.O.(Chief Petty Officerの略で「下士官」の意)と呼ばれるスポーティなシャツジャケット。4年ほど前にパリのヴィンテージショップで見つけて購入。そのコンディションのよさに驚いたそう。圧縮ウールの質感や赤の発色が今のモノにはないクオリティ、とは赤峰氏の弁。流行を追いかけず、服の生まれた背景を大切にしている氏の審美眼にかなった一品。
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2006年08月24日(木)
OCEANS 10月号 連載#7 [OCEANS掲載記事]
King of Elegance
マエストロ赤峰の
「粋がわかれば、すべてがわかる」
ハンティングジャケットをタイドアップで粋にこなす
ジャケットはハリスツイードのエクスクルーシブ生地を使用したY.アカミネの2006年秋冬コレクション。マチ幅のあるフラップ付きのアウトポケットが特徴。白シャツに合わせたチェックタイは、ロンドンのボンドストリートにかつてあったツイードの生地屋「W.Bill」のもの。スコットランド製で、柄の名称はズバリ「GUNN」。ハンティングジャケットに似合う、名パートナー。パンツは重厚感のジャケットに合わせて、ウェイトが重いグレーフランネルを。シューズは17年前くらいに購入した「チャーチ」で、編み上げのブラウンストレートチップブーツ。今年の秋冬の赤峰氏流、ハンティングスタイルだ。
ハンティングスタイルの「粋」
カジュアルウェアという言葉が好きではない。アメリカから影響を受けたこの言葉が広範囲で使われるようになり、「カジュアルウェア=略式・簡略=自由でなんでも許される」と解釈されている。そんな、服の作法を知らない、知ろうともしない人がいるから、好まないのだ。私は日本人が欧米のマネをすることを勧めるつもりはまるでない。しかし、洋服が生まれた背景に敬意を持ち、当たり前のことは当たり前に取り入れるのが筋だと思っている。例えば、イギリスやフランス、イタリアの人々は休日の服装をカジュアルなどとは定義しない。スポーツスタイルとして捉えている。テニス、ヨット、ゴルフ、ポロ、スキー、ドライビングなどのクラススポーツのための服装。従って、それぞれのクラススポーツのためのスタイルには、その場にふさわしい作法、つまりT.P.O.が求められる。スポーティであっても、あくまでその世界での正装なのである。
さて、そうした事柄を踏まえて、秋冬のクラススポーツスタイルとして粋だと思うのはハンティングだ。スポーツも季節が大事で、春(注1)夏はマリン、秋冬はハンティングとなる。イタリアでは狩りを(注2)カッチャというが、ハンティングは秋冬のクラススポーツの代表。フランスの「(注3)アダム」でも、秋冬号は必ずハンティングスタイルを掲載する。実際に狩りをすることではなく、あくまでもファッションとしてだが、メンズクロージングは服の生まれた背景、その名残をデザインとして取り入れ、あくまでも本流の香りを漂わせるのが粋だ。例えば、ボタンダウンシャツはポロ競技において、襟が邪魔にならないようボタンを留めたのが始まりであり、ポロシャツは言うまでもなくテニスが発祥。クラススポーツスタイルとは、別の言い回しをするならルーツファッションともなるだろう。そして、歴史上でそうした装いが最もうまかったのは、かの(注4)ウィンザー公。その影響は今でも多大だ。私はこの秋冬、ハンティングの名残であるディティールをデザインとして取り入れた、(注5)ハリスツイードのハンティングジャケットを着る。それは流行うんぬんではなく、いつもの流儀であり、これからも変わることのない私流の着こなしだ。。
(注1) 「夏はマリン」
小誌9月号でも特集。夏はクラススポーツのひとつであるヨットが、粋な着こなしのための要素に。
(注2) 「カッチャ」
イタリア語で「狩り」の意味。「カッチャトーレ」となると「狩人」。イタリアでも英国調の着こなしが正統として好まれ、ハンティングがカッチャスタイルとして定着している。
(注3) 「アダム」
1930〜70年代にかけて粋な男性のバイブルとして支持されていたフランスの雑誌。イラストをとおして解説されていた。
(注4) 「ウィンザー公」
英国王室の中だけでなく、広く史上無二のウェルドレッサーとして語り継がれる、エドワード8世。
(注5) 「ハリスツイード」
ツイード素材で有名なスコットランドの生地メーカー。
赤峰氏が所有する「アダム」より。このように秋冬になるとハンティングスタイルをイラストで紹介していた。粋な男のスタイルの見本として参考になる、まさにファッションバイブル。
こちらの絵本も赤峰氏の所有。英国の伝統的なハンティングスタイルが描かれている。
アメリカナイズされたハンティングスタイルなら1953年に製作されたジョン・フォード監督、クラーク・ゲーブル主演の名作映画「モガンボ」がいいお手本。アフリカのジャングルを舞台に繰り広げられる恋愛・冒険娯楽大作だ。
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今月の赤峰ワードローブ [OCEANS掲載記事]
コノリー社のレザージャケット
レザー製品の最高峰と謳われるコノリー社のスウェードブルゾン。15年ほど前に、交流のあるイタリアのレザーメーカーの社長から譲り受けたもので、コノリー社が最も高いクオリティを保っていた1970年代のデッドストック。かなり着込んではいるが、味わいは深くなり、より魅力的に経年変化を遂げている。赤峰氏はこのスウェードブルゾンに、黒のニットタイを合わせるのが好み。ボトムスは何でもマッチングする。
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2006年07月24日(月)
OCEANS 9月号 連載#6 [OCEANS掲載記事]
King of Elegance
マエストロ赤峰の
「粋がわかれば、すべてがわかる」
夏のスニーカーの「粋」
ファッションにはある種の方程式がある。自分に似合う、似合わないを見分けるのはセンスに委ねられるが、(注1)正比例な着こなしを実践する分には道を間違える人はあまりいない。ドレスアイテムとドレスアイテムを合わせれば、答えは必然、ドレッシーに導かれる。しかし、私は反比例的な着こなしを好む面がある。ドレスアイテムとスポーティーアイテムの組み合わせだ。そして、その夏バージョンとしての具体例のひとつが、スーツとスニーカーのハーモニーである。
端的に言えば、スーツのドレスダウン。ポイントとなるのは首元と足元で素肌を露出して、開放感を演出することである。首元はアンタイドでシャツ、もしくはポロシャツを合わせれば問題はないだろう。次は足元だ。選択肢にはレザーのスリッポンが最近の傾向。しかし、私は好まない。素足で履くのは、足にガマンを強いることになるからだ。素足のように見せかけるショートソックスは論外。私の答えはキャンバススニーカーだ。ダラしなくならず、キチッとしながらもくだけている。そんな印象がよい。(注2)ポルトフィーノやカプリの格式あるリゾートにあるホテルで日中を過ごすときの着こなしだ。(注3)スーツにスニーカーを合わせることは、ハズレではない。ハズレとは、やはり、これ見よがしで目立つことが念頭にあり、スニーカーによるスーツのドレスダウンは、実は比例的な着こなしのアレンジ。反比例的な着こなしでもあるが、見事にハーモニーを奏でている。それゆえ、とても粋だ。(注4)なんでもありなカジュアルではなく、スポーティシックとでもいえよう。
スニーカー選びのポイントは3つ。第1は、キャンバスであること。キャンバスはナチュラルで、清涼感があり、履いていくほどに味わいが深くなる。そして第2は、ルーツといえる王道的なモデルを選ぶこと。私の場合では、(注5)コンバースのオールスターとスペルガの2750がそれである。第3は、カラーは(注6)モノトーンに限る。この3つのポイントを押さえていれば、どんなクラシックなスーツに合わせたとしても、決してハズしにはならない。むしろ、粋とは何たるかを知っているからこそできる、夏のスーツの手練手管なこなし方の好例だといえるだろう。
(注1) 「正比例的な着こなし」
ルールが存在するスーツの世界では、正比例的な着こなしと、反比例的な着こなしがあり、そのどちらも正しい着こなしという理解を持つといい。
(注2) 「ポルトフィーノやカプリ」
イタリアの代表的なリゾート地。
(注3) 「スーツにスニーカー」
赤峰氏曰く、スーツにスニーカーを素足で履くのは、ドレッシーなマインドでのクールビズ。そして感覚的には、日本での着物と下駄の関係性に通じる。
(注4) 「なんでもあり」
カジュアルとドレスダウンは似て非なるもの。最近のカジュアルは、ルール無用なハズしが多い。例えば、スーツにサンダルとか・・・・・・。
(注5) 「コンバースのオールスターとスペルガの2750」
特別にデッドストックなどにこだわらず、現行品を愛用。キャンバススニーカーは、履き潰しては買い替えることを繰り返している。
(注6) 「モノトーン」
生成り、黒を基本として、ネイビーやグレーなども含める。
素足にキャンバススニーカーでスーツをシックにドレスダウン
左は11年ほど前にイタリアはミラノにあるサルト、リベラーノ&リベラーノにて仕立てたグレーストライプのダブル6ボタンスーツ。白のオックスフォードのレギュラーカラーシャツをアンタイドで合わせ、赤のドットシルクチーフを効かせ、足元にはコンバースのグレーキャンバススニーカーを合わせている。このスニーカーの選択がスーツに対して反比例的であり、正比例ならば黒のストレートチップを合わせる。
こちらでは上写真と同じくリベラーノ&リベラーノで13年程前に仕立てたグレーストライプの3ボタン段返りスーツに、ラコステの黒のロングスリーブポロを合わせている。襟をナチュラルに立て、ボタンを2つ開け、裾をパンツの外に出すのが赤峰流のこなし。足元はコンバースの白キャンバススニーカー。
1965年、マリブにあるコテージにてくつろぐ、英国の俳優、ジェームス・フォックス。ジャケットでドレスアップしながらも、素足で過ごす感覚が粋。
資料は、赤峰氏所有のフォトグラファー ウィリアム・クラクストンによる写真集「PHOTOGRAPHIC MEMORY」より。
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今月の赤峰ワードローブ [OCEANS掲載記事]
Y.アカミネのミリタリージャケット
赤峰氏のプライベートブランドであるY.アカミネにて、2005年春夏に発表したミリタリージャケット。スコットランドのツイードメーカー、マギーのアーカイブから、このざっくりとしたコットンを復刻して使用。ポケットが多く、ウェストをシェイプできるデザインの機能性とシワになりにくくて涼しいファブリックの機能性を両立する。赤峰氏はカーディガン的に着こなして愛用している。
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