2007年01月24日(水)
OCEANS 3月号 連載#12 [OCEANS掲載記事]
King of Elegance
マエストロ赤峰の
「粋がわかれば、すべてがわかる」
モヘアスーツの「粋」
クラシックとは流行に左右されないこと。だから、スーツに関して言えば、若干のバランスを変えることはあっても、いつの時代も基本的なデザインは決まっている。では、スーツを仕立てる際の一番のカンドコロは何か?それは生地である。デザインうんぬんではなく、まずは生地ありき。着こなしも、生地から着想を得ることが多い。
今回、着用している(注1)モヘアスーツも然り。生地はロンドンのリージェントストリートにある反物屋にて手に入れた(注2)ウィリアム・ハルステッド社のデッドストック。このモヘア生地に出会ったのは、およそ6年前。アメリカ映画「北北西に進路を取れ」に出演していたケーリー・グラントのイメージが真っ先に浮かんだ。彼のモヘアスーツの着こなしがあまりにも粋であったのだ。モヘアのよさは、独特のシャリ感と光沢感に尽きる。ギラギラとした光沢ではなく、ナチュラルで控えめであるがゆえにエレガントであり、セミフォーマルに通じるドレッシーな雰囲気を漂わせる。それで清涼感も伝わるから、春夏のスーツとしても最適なのだ。
私はこのモヘア生地を手に入れ、馴染みの(注3)リベラーノ リベラーノに持ち込み、(注4)赤峰モデルとして仕立てた。テーラーのリベラーノ氏とは長年の付き合いにより、あうんの呼吸でやりとりができる。そのような関係は一朝一夕には成り立たないが、作り手と着手、または売り手と着手のコミュニケーションは、とても重要である。さまざまなお店で買い物をするよりも、特定のショップを行きつけとして、さらに特定の定員と馴染みになるのがいい。そうすれば、自分のワードローブを把握してもらえ、アドバイスも的確に得ることができる。服の主治医のような相手を見つけてほしいと思うのである。私にとって、リベラーノ氏はまさにそういう関係にある。モヘア生地を持ち込み、仕立てを依頼すると、まずは着こなし、さらにはどんなシーンで着るのが粋か、などと話しが広がっていく。だから、仕上がりにブレがなく、いつでも満足ができる一着となるのだ。スーツを新調するときは、店員とコミュニケーションを密に。そして、生地に着目して選ぶこと。それが粋な着こなしに通じる。
(注1) 「モヘア」
アンゴラ山羊の毛を原料にした素材で、春夏用のスーツ地として用いられる。独特のナチュラルな光沢感と、涼しげな織り上がりが持ち味。
(注2) 「ウィリアム・ハルステッド社」
1825年創業、英国の老舗ファブリックメーカー。モヘアの生地はとりわけ高い評価を得ている。
(注3) 「リベラーノ リベラーノ」
赤峰氏が全幅の信頼を寄せる、フィレンツェに店を構えるテーラー。赤峰氏は年に数回、現地を訪れ、6、7着のスーツを仕立てている。
(注4) 「赤峰モデル」
赤峰氏がリベラーノ リベラーノにて製作するオリジナルモデル。基本の3ボタン段返りであるが、ラペルがややナロー。パンツの股上はやや深めになっている。
1959年公開、アルフレッド・ヒッチコック監督作品
「北北西に進路を取れ」のワンシーンより。
右の男性は、主人公ロジャー・ソーンヒルを演じるケーリー・グラント。ブルーのモヘアスーツの粋な着こなし例。
モヘアスーツの応用範囲は広い。Vゾーンのこなし方次第で、ビジネスシーンはもちろん、パーティシーンに対応するドレッシーな雰囲気も醸し出す。
これ見よがしにならない着こなしの赤峰氏流の法則
ブルーのモヘアスーツに合わせているのは、ブルーストライプのシャツとネイビーに赤と白のストライプを配したタイ、そして赤のチーフ。全体はブルートーンでまとめ、赤の中でもイタリア語で「血」を意味するサングエイと呼ばれる鮮やかな赤の1色のみをアクセントカラーとして加えている。また、Vゾーンをストライプ×ストライプで着こなす場合、シャツはストライプの間隔が狭く、タイは間隔が広いものを合わせること。それが、メリハリを上手に利かせるコツ。足元はオーセンティックな黒のストレートチップ。それで、セミフォーマルに通じるシックな着こなしが完成する。
Posted by インコントロ STAFF at 00時00分 コメント ( 2 )
コメント
いつもブログをご覧頂き、心から御礼申し上げます。グレンオーヴァーを立ち上げて早や30年近く経ちますが、物づくりの気持ちは今までと同じです。つい2日程前まで、仏・伊の生地展示会から帰国したところです。物づくりの原点は、現場第一、オーガニックな野菜同様、みずから産地に出向き、AkamineRoyalLineをスタートさせ、日本橋三越本店2Fで展開が始まりました。当社ショールームにて、パターンオーダー会も計画しております。是非お立ち寄り下さい。
ブログをいつも楽しく拝見しております。小生の自宅には20年ぐらい前に購入したグレノーバーのコールテンパンツがありますが、とても丁寧なつくりで生地もしっっかりしていて重宝しております。
本件ブログ内容も楽しく拝見しました。モヘアはちょっとおじさんくさいという先入観がありましたが、読んで欲しくなりました。
ところで、映画の「北北西に進路をとれ」の、ケーリーグラントのスーツですが、映画をDVDで再度見てみたところ、かなり明るいグレーのように見えます。ブルーのパンツのみのシーンは最後に出てきますが。
どのシーンでも、惚れ惚れするような着こなしであることにはかわりはありませんが。