2006年11月06日(月)
MEN'S EX 12月号 菊池武夫と赤峰幸生の Be Buffalo Forever! vol.7 [MEN'S EX 掲載記事]
菊池武夫さんと赤峰幸生さん。
ファッション界の2人の巨匠が毎回テーマをひとつ決め、それに基づいてファッションを披露し語り合う、夢の対談連載。
「今月のテーマ」
大人の男のコートスタイル
本連載初のゲストは、ご存知バセット ウォーカーの三代さんと阪急百貨店の花谷さん。ファッション界の若手注目株2人をゲストに4人での対談。男の永遠のテーマである「コート」についての、菊池さん&赤峰さんの持論が炸裂!
■(写真右)三代彰郎氏
A.グレヴィの帽子
B.バセット ウォーカーのイタリア製シャツ
C.バセット ウォーカーの銀糸入りタイ
D.バセット ウォーカーのトレンチコート
E.バセット ウォーカーのイタリア製ウォッシュトウールパンツ
F.ジャコメッティの靴
■(写真右から2番目)赤峰幸生氏
A.シャルベでオーダーしたシャツ
B.アルニスのタイ
C.英国のテーラーが仕立てたビキューナのコート
D.リヴェラーノ&リヴェラーノで仕立てた'60年代モデルのスーツ
E.ストール マンテラッシのシューズ
■(写真左から2番目)菊池武夫氏
A.クールのハット
B.Y.アカミネのジャケット
C.ルイ・ヴィトンのシルクシフォンのストール
D.ジル・ロジェのウールカシミアコート
E.40カラッツ&525のジョッパーズ
F.オールデンのコードバンタンカーブーツ
■(写真左)花谷典男氏
A.エトロのアンゴラ・カシミア混のウールマフラー
B.ドルチェ&ガッバーナのジャケット
C.40カラッツ&525のダッフルコート
D.ヌーディージーンズのジーンズ
E.マルタン・マルジェラのスニーカー
赤峰さんが撮影時に着用したコートを触りながら、三代さんも花谷さんも感心しきり。
なかでもエルメスのスカーフを裏地として使用しているのには驚きでした。
原稿では割愛しましたが、服好き4人が集まっての服を見ながらの話は、どんどんディープな方向へ・・・・・。
■4人が着用した今季イチオシのコートとは?
M.E. 赤峰さんのコート、(注1)ビキューナですね。
赤峰 自分ではビキューナという認識はないんです。ラムのコートを着ているような感覚っていうのかな。値段がどうとかいうのではなくて、たまたま義理の父がロンドンで仕立てたコートを譲り受けたものなんです。
菊池 裏地にエルメスのスカーフを使っているのにはびっくりしました。表から見るとごくごくフツウのコートなんですけどね。
赤峰 このコートはかれこれ4〜5年着ていますけど、自分の体温でかなりいい感じに馴染んできました。毛の密度感っていうのかな。カシミアにはない目の細かさがありますよね。
菊池 クリクリしているんですよね。
赤峰 そうなんです。ところで、菊池先生が着ているコート、素敵ですね。
菊池 ジル・ロジェというデザイナーのコートで、美しいラインが気に入ってます。
三代 ラペルとか、ローマの昔のスーツみたいなカッティングですね。
赤峰 フランスの'30年代とか'40年代あたりのコートっぽい雰囲気もあります。ボタンが小さいのも凄くいい。
花谷 後ろのラインもきれいですよね。
三代 ドレッシーにビシッと着るのもカッコいいんでしょうけど、タケ先生みたいに崩して着るのもヨーロッパで見られるスタイルですよね。
赤峰 ところで三代君のコート、とってもいい生地使ってるね。
三代 昔の(注2)ムーアブルックのやつです。こういういい生地屋さん独特の風合いを大切にしたいなって思っていて、それを今までは海外のサルトさんに作ってもらっていたんですけど、最近、成熟してきた日本のモノ作りが気になっていて、これは日本で作ってもらったものです。コートは実用品って考えがあるんですけど、僕の年齢だと、ただ着てかっこいいっていう風にはまだどうしてもならなくて、だからディテールにとことんこだわりながら、どこかで遊んで着こなしています。形体は機能に従う、みたいなのが好きなんです。
赤峰 これ、680gくらいあるよね。
三代 そのくらいあると思います。あと、コートは生地とシルエットが命じゃないですか。先生の大の仲良しである(注3)リヴェラーノさん、彼のスーツって太いですけど、ダーツであれだけ立体的に見せていますよね。サルトさんたちから習った技術を少しずつ反映させて、だからこれもダーツを入れて細身かつ立体的に仕上げてあるんです。
花谷 今日は菊池先生が手掛けられたダッフルを着させていただいたんですけど、僕は上品なスタイルを追求していきたいというのがあって、そういった意味ではダッフルコートって凄くいいなって思います。機能面でも秀でたものがありますよね。
赤峰 歳とってから着たいよね。スーツの上から着るのが気分かな。
花谷 確かに、菊池先生が最初これを着ていたとき、本当カッコよかったですから。今までのダッフルコートってもたつき感みたいのが凄くいやだったんですけど、これはすっきりしていて、そこがとても気に入ってます。
菊池 三代さんのコートじゃないですけど、シルエットの美しさにはこだわりましたからね。モノを作るときは、いつも何がカッコいいのかって考えながらやってきましたけど、その瞬間に一番求めているものをその原型の中に入れたいというのはあります。原型は歴史を辿ると既に出来上がっているものなんだけど、2006年はこのカタチで着たいっていう、そのときの気分を取り入れることが大切なんです。
赤峰 時代の気分のブレンドなんですよね。どうブレンドするかという点で、菊池先生の場合はそのへんの匙加減が絶妙なんですよね。
花谷 コートの内側に入った紫のパイピングが好きですね。僕は関西の人間ですから、昔は多色使いが基本だったんですけど、最近はなるべく抑えるようにしています(笑)。このくらいのアクセントがちょうどいいです。
■スーツはショルダーと胸、コートは腰のアタリで着る。
M.E. 花谷さんと三代さんのファッション観を聞かせてください。
花谷 自分は上品さとプリティさを大切にしたいなと思っています。売り場でもそういう点を意識しながら演出していきたいですし、今の時代、「カッコいいだろ、よりもカワイイでしょ」みたいなほうが女性にモテるんじゃないかって、前から思っていたんです。
三代 僕らの世代だと、女性には当然モテたいんですけど、男が男に惚れるっていうのもあるじゃないですか。両方にモテたいっていうか、男性の人にもこれいいよねっていわれるものを着たいですよね。
花谷 ああ、そうかもしれません(笑)。
三代 タケ先生も赤峰先生もほかに似てる人がいないカッコよさですよね。最初は誰かを参考にしながら自分の哲学を築いてこられたんでしょうけど、おふたりを前にして日本のファッション界の先輩って凄くカッコいいんだなって改めて思いました。
赤峰 タケ先生も僕も、基本は映画からなんです。当時は映画しかなかったからね。逆をいえば、映画だけがあったことの幸せ感というのがありました。そこから何を学ぼうっていう、スポンジの吸収度が違いましたよね。そういうしつこさはもってもらいたいですよね。イタリアで夜中に目が覚めてテレビをつけると、いまだに'50年代や'60年代のモノクロ映画が必ずやっているんですよね。
三代 確かによくやっていますよね。
菊池 ヨーロッパの人は黙っていてもカッコいいじゃないですか。日本人はカッコよくない原型をカッコよくしようと、一生懸命細かく勉強するでしょう。それが服にしっかり表現されているなっていうのは感じます。外国人がマンネリ化して忘れてしまっているものを、日本人は細かく攻めていますよね。三代さんの話を聞いていて、入り込み方が違うなって感心しました。
赤峰 イタリアンスタイル、フレンチスタイルだけではなくて、いつかはジャパニーズスタイルっていうのを築いてほしいですよね。若い人が頑張ってくれるのは楽しみだけど、とはいえ自分たちも負けてられないなぁ。
花谷 おふたりがコートの着こなしで影響を受けた人を教えてください。
赤峰 トレンチはリノ・ヴァンチュラかな。先生が着ていたようなダブルのコートだったら、ケーリー・グラントとか(注4)ピーター・セラーズ。ダブルのアルスターっぽいコートだったら、(注5)カルロ・ポンティっていうソフィア・ローレンの旦那さんの着方です。
菊池 僕の場合、親父かな。ダブルブレストのもっとボリュームのあるやつでね。割とマフィアっぽい格好でした(笑)。昔の写真を見ると、やっぱりカッコいいなってね。俳優もいいけど、身近だったぶん、リアルでした。
三代 コートってメンズのアイテムの中でも特別なものだという感覚が、自分の中にはあるんです。両先生にとって、コートとはなんぞやっていうのを教えてください。
菊池 生活全体が簡略化されて便利になったから、洋服がしぼんできて、四季も意識しなくなって、無駄なことが増えていますよね。コートは防寒アイテムなのに、今の人は寒いときに着るっていう意識が希薄なような気がするんです。旬の食材があるように、そういう感覚で、洋服も生活も生き方も見直すと、もっともっと楽しくなるんじゃないかと思います。
赤峰 ジャケットやスーツはショルダーと胸のドレープで着るものですけど、コートは男性も女性も腰のアタリの色気で着るものなんです。イタリア人でそういう着こなしをしている奴を見ると、やるな、チクショーって思います。
三代 素晴らしい!腰のアタリの色気で着る・・・・・・名言ですね。
花谷 これを機に、自分はもちろん、お客様にもそういうきっかけを与えていけるよう頑張っていきたいです。
(注1) 「ビキューナ」
南米アンデス山脈の標高4,000mの高地にのみ生息する野生ラマの獣毛。最高級服地として知られ、ビキューナでコート1着仕立てると、ウン百万はくだりません。
(注2) 「ムーアブルック」
今は無き英国の生地メーカー。ピーコートなどに使われるメルトン地に定評がありました。
(注3) 「リヴェラーノさん」
フィレンツェの名門サルト、リヴェラーノ&リヴェラーノのオーナー、アントニオ・リヴェラーノ氏のこと。赤峰さんの昔からの大親友です。
(注4) 「ピーター・セラーズ」
1925年〜80年。英国ハンプシャー生まれ。'55年の「マダムと泥棒」で喜劇俳優として高い評価を得ました。有名なのは「ピンクパンサー」シリーズのクルーゾー警部役。
(注5) 「カルロ・ポンティ」
1913年、ミラノ生まれ。イタリア映画の黄金期を築いた名プロデューサー。「道」、「鉄道員」、「女は女である」、「ボッカチオ'70」など、数々の映画を製作。
Posted by インコントロ STAFF at 00時00分 コメント ( 0 )