2014年01月07日(火)
だしが利いた服を [朝日新聞掲載記事]
去年のことになりますが、「いのちのスープ」で知られる料理研究家、辰巳芳子さんのドキュメンタリー映画を見ました。米寿を超えた今も、丹精込めてだしを取った汁物を作り、庭の梅を漬け込む仕事も続けています。その生き方に教えを請いたいと、料理教室には順番待ちの列が絶えないといいます。
いま、都会で働く人たちは、たいへんなスピードを求められています。常に「早く」「効率的に」とせき立てられ、まるで五倍速の時計を身に着けているかのようです。
傑作を数多く残したアニメ映画監督の宮崎駿さんが、商業ベースでは自分のペースで仕事ができないと、長編の制作舞台から降りることを決めたのも去年のことでした。丁寧な仕事と、現代ビジネスの速度がかけ離れてしまったことへの苦悩があったのではと推察します。こうした時代だからこそ、「カチカチ」としっかり時を刻んでいくような仕事が尊いのにと、残念に思います。
「ファッション」と言えば、移り変わりが激しいものと思われているかもしれません。確かに、日本では最近まで、「これを着ないとまずいかな?」というマス消費が続いていました。結果、不要になった服をどんどん捨てていきました。
しかし、最近は「ずっと続いていくもの」が共感を得て選ばれるようになったと感じます。
本当に良い服とは、丁寧に染め、糸を紡いで、織り込んで、縫い上げたもの。手間ひまをかけた、いわば「だし」が利いた服です。調味料を振りかけるのではなく、素材からしっかり時間をかけてうまみを抽出したものだと言えます。
新しい1年が始まりました。さらに「だしが利いた服」に目を向けて頂けますように。
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Posted by インコントロ STAFF at 11時10分 コメント ( 0 )