2012年12月15日(土)
朝日新聞be on Saturday『赤峰幸生の男の流儀‘「トニック」という服地について’』2012年12月15日(土)掲載 [朝日新聞掲載記事]
年末ともなれば会食や会合が多くなります。私が公の席でいつも身に着けるスーツと言えば「トニック」。1957年に仏・ドーメル社の4代目、グザビエ・ドーメルが羊と子ヤギの毛(モヘア)を混紡させて作り上げた素材です。完成を祝して「ジン・トニック」で乾杯したことから、この名が付いたと言います。
そもそもの「トニック」を辞書で引くと、「強壮剤、肉体的精神的に元気づけるもの」とあります。スーツ素材のトニックにはピシッと張りがあり、スチームローラーで表面の粒子を焼くことから渋い光沢を放ちます。日本では夏の素材と誤解されていることもありますが、仕事やハレの席で年中活躍します。パーティーでトニックのグレースーツを身にまとい、白いシャツにブラックタイを締めれば、身も心もバチッと決まります。
トニックは60年代には紳士の正装として欠かせないものとなり、世界で1千万メートル以上が売れたといいます。各メーカーがモヘア混の開発を後追いし、現在でも混紡の比率を変えながら、世界中で愛され続けています。
私は生地を探求する中でグザビエと出会い、英・ヨークシャーの生産現場を訪問するなど、親交を温めてきました。今春、彼が亡くなって日本で開かれたしのぶ会には、ビンテージとなった私のスーツを3着、会場に飾ってもらいました。もう10年以上着ているものですが、重みがあって丈夫な生地の魅力は今なお色あせていません。
「革新なくして未来なし」。その精神は5代目のドミニクにも受け継がれています。スーツを見るとき、そのデザインに目を奪われがちですが、技術の粋を集めた服地にもご注目頂きたいと思います。
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Posted by インコントロ STAFF at 00時00分 コメント ( 0 )